高齢者への支援のポイント
認知症で最も発症例が多いアルツハイマー型認知症は、進行すると認知機能だけでなく身体機能も衰えていきます。発症予防をしたいけれど、どういったことを行えばいいのか分からないという方もいらっしゃるでしょう。アルツハイマー型認知症を中心に、その予防と年齢の関係についてご紹介します。
認知症は脳の萎縮から始まっていく
人間の脳で一番大きな割合を占めているのは、大脳と呼ばれる部分です。大脳は、知覚情報の分析や統合、記憶機能など、人間の「考える」と言われている行動の大部分を担っています。その成長は生後直後から始まり、思春期を過ぎた頃にほぼ完成すると言われています。しかし、完成と同時に老化が始まり、脳の萎縮が進行していくのです。
特に、記憶をつかさどる「海馬」と呼ばれる部分は、動脈血の減少によって起こる局所的な貧血(虚血)やストレスに対して、あまり強くありません。この海馬の萎縮は、心的外傷性ストレス障害(PTSD)や鬱病患者、そしてアルツハイマー型認知症にみられる現象の一つになっています。
脳の萎縮が進むごとにリスクは高まっていく
まず、アルツハイマー型認知症において発生する、脳の萎縮のメカニズムについて見てみましょう。この型の認知症では、脳にアミロイドβやタウといった特殊なタンパク質が留まり、脳の神経細胞が破壊されてしまいます。神経細胞が減少することで、脳の萎縮が発生し、やがて病気の症状が現れるのです。アルツハイマー型認知症の発症は、人によって異なりますが、直近のことを忘れるという方が多いと言われています。症状が進むと、料理ができなくなる、片付けができなくなるといった日常生活に支障が出るようになってくるでしょう。
脳は、体積が大きいほど記憶力・認識力・判断力といった高次認知機能が発達しているとされています。脳の萎縮は、運動機能にも影響を及ぼすため、高次認知機能が衰えないように維持することが大切です。
脳が萎縮しても認知症発症とは限らない
アルツハイマー型認知症の初期症状の一つに「物忘れ」がありますが、加齢が原因で起きる方もいらっしゃいます。加齢による物忘れとアルツハイマー型認知症の物忘れには大きな違いがあるのです。加齢による物忘れの場合は、記憶を構成するものが、ぽろぽろと抜け落ちている状態で、その周辺の記憶を刺激すると思い出すことができます。しかし、アルツハイマー型認知症の場合は、直近の忘れたことに関する前後の部分がまるごと抜けている状態です。そのため、時間や場所などの周辺情報を与えられたとしても、思い出すことはできません。
人の記憶は、脳の神経細胞を使って記憶されています。本を読んだり新しいことを学んだりすることで、神経細胞の機能を維持することが可能です。ところが、アルツハイマー型認知症の物忘れは、初期記憶を保存する脳の一部が破壊されているため、記憶自体が行われていないことが考えられます。
アルツハイマー型認知症は、進行を遅らせる薬があるため、早期発見・早期治療が大切です。しかし、一度破壊された脳を回復することはできません。加齢による記憶力の低下は、記憶領域そのものが失われていないため、脳を活性化させ、記憶力を鍛えるようにしましょう。
認知症予防は何歳から始めるべきか
認知症予防が推奨されている年齢は40代と言われています。「年齢も若いからまだ大丈夫」と安心してはいけません。衰えを感じていなかったとしても、脳を適度に刺激することを意識して行いましょう。
また、アルツハイマー型認知症では、本格的に発症する前に、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる症状が現れます。これは、「記憶障害が認められるものの、日常生活には支障を来さない」という状態です。この段階で専門機関による治療を受ければ、アルツハイマー型認知症の発症を遅らせることができると言われています。MCIであるかどうかは、簡単な認知機能検査や血液検査などで診断ができるため、気になる方は調べてみるといいでしょう。
アルツハイマー型認知症は、遺伝性ものもあると言われています。家族や親族に発症した人がおり、「最近物忘れがひどい」などの症状がみられる方は、専門機関に相談してみるようにしましょう。