データで見る!高齢者虐待の実態と起こる理由、虐待を防ぐためにできること

介護の問題・トラブル

高齢化が進む昨今、高齢者への虐待が大きな問題となっています。
厚生労働省のデータによりますと、高齢者虐待は年々増加傾向にあります。

この記事ではデータをもとに、高齢者虐待の実態や原因、理由や対策を解説します。

高齢者虐待は年々大きな問題に

急速に高齢化社会が進む昨今、年齢を重ねてもその人らしく幸せに暮らしていくために、介護や福祉における課題に注目が集まっています。

しかし、介護や福祉の制度が充実していく一方で、家庭内や介護施設における高齢者への虐待が問題になっているのが現状です。

厚生労働省の調査結果によりますと、高齢者虐待の件数は年々増加しています。
介護老人福祉施設における虐待件数は、2016年から2017年の1年間で12.8%増えて510件に上りました。
また、家庭内における虐待件数は、2016年から2017年の1年間で4.2%増えて1万7,078件に上りました。
家庭内における家族、親族、同居人などによる虐待相談・通報件数は、なんと3万40件にも上ります。

家庭内や介護施設内での高齢者虐待は外からは気づかれにくく、エスカレートしてしまうまで発見が遅れる例も少なくないのが現状です。

高齢者虐待の区分と具体的な例とは

一般的に「虐待」と聞くと、身体的な虐待をイメージする人が多いかもしれません。
しかし、高齢者への虐待は、身体的なものばかりではないのです。

本人が認知症で何もわからなくなったからといって財産を勝手に使ったり、寝たきり状態だからといって毎日暴言を投げかけたりするという行為も立派な虐待です。

厚生労働省では高齢者虐待を五つに区分し、「身体的虐待」「介護・世話の放棄・放任」「性的虐待」「心理的虐待」「経済的虐待」としました。
一つずつ解説していきます。

身体的虐待

身体的虐待には、殴る、蹴る、やけどを負わせるなどの暴力が挙げられます。

そのほかにも、自力で動けないように過度にベッドに縛り付けたり、薬を過剰に服用させて身体を拘束したり動きを抑制したりすることも身体的虐待にあたります。

介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)

ネグレクトとは、介護者が介護を放棄し、被介護者の生活環境や身体・精神的状態が悪化することです。これは、意図的かどうかは関係ありません。

介護施設の人員が不足しているからといって異臭がするまで入浴させなかったり、おねしょをしてしまうからといって水分を充分に与えなかったりすることも虐待です。

介護・世話の放棄や放任が続くと、皮膚の病気になったり、水分不足で脱水症状を引き起こしたりしてしまう可能性もあります。

性的虐待

性的虐待とは、キス、セックスの強要だけでなく、あらゆる性的な行為や強要のことを指します。

たとえば、排泄に失敗した罰として下半身が裸のまま一定時間放置することなども性的虐待です。

心理的虐待

心理的虐待とは、言葉の暴力や介護者の威嚇的な態度により、高齢者を委縮させ、自立心を低下させる行為です。

たとえば、「食事や排せつに失敗した際に罵声を浴びせる」「自分で身の回りのことができなくなったことに対して嘲笑する」などが挙げられます。

経済的虐待

経済的虐待とは、本人の合意が得られないまま、財産や年金・預貯金を取り上げ不正に利用すること、不動産・有価証券などを勝手に売却することなどが挙げられます。

また、日常生活に必要な金銭を渡さなかったり使わせなかったりすることも、経済的虐待に含まれます。

家族、親族などによる高齢者虐待

前述のように、2017年度の家庭内における高齢者虐待は、把握できているだけでも1万7,000件以上にものぼります。

家族、親族などによる高齢者虐待は、介護者の介護うつなどが原因となることも多いようです。

『平成28年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)によりますと、虐待者の内訳は40.5%が息子、21.5%が夫、17.0%が娘となっており、実の息子から虐待を受けるケースが最も多いという結果になりました。

昨今の未婚化や、子どもと住居を別にする世帯の増加に伴い、介護者が息子や夫などの男性になることも珍しくありません。

これまで仕事しかしてこなかった男性が、急に慣れない家事や介護をすると想像以上のストレスを1人で抱え込んでしまうことになります。
1人で介護の負担・ストレスを抱えてしまうことにより、家庭内で虐待が発生すると考えられます。

このような介護者への支援策も今後の大きな課題となっています。

介護施設での高齢者虐待

前述の『平成28年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)報告書』(厚生労働省)によりますと、介護従事者による高齢者虐待は身体的虐待が60%にものぼり、介護施設での虐待件数も年々増加傾向にあります。

それでは、介護施設で高齢者虐待が起こってしまう理由を見ていきましょう。

人員不足・職員の労働環境の悪化

介護施設で生じる虐待理由のひとつに、「人員不足による職場環境の悪化」が考えられます。

介護施設で人員が不足してしまうと、スタッフ一人ひとりの負担が重くなります。

排泄や入浴のサポート、認知症の方への対応など、介護施設では体力だけでなく精神力も必要です。

人員不足によりストレスや疲労が蓄積してしまうと、ストレスのはけ口として虐待が起こってしまったり、意図的ではなくても放置につながってしまったりすると考えられます。

職員の教育不足

また、「職員の教育不足」も虐待の増加の原因の一つとされています。

高齢化社会が進むにつれ、介護施設が急増しています。

それに伴い、新しい職員が被介護者への接し方を知らないままに働かされたり、介護について十分に学ぶ機会が無いままに介助をしたりしなければならないケースもあるようです。

このような場合にも、ストレスのはけ口として虐待が起こってしまうことがあります。

被介護者に認知症の症状がある場合

そして、「被介護者に認知症の症状がある場合」も虐待を受けやすいという結果があります。

前述の「平成28年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)報告書」によりますと、虐待されている被介護者のうち、約84%の人に認知症症状が認められました。

認知症症状があると、被介護者が徘徊したり急に怒り出したりする場合もあります。

介護者が介護にストレスを抱えてしまった場合、「どうせ虐待をしてもわからないだろう」と思い虐待につながるケースもあるようです。

高齢者への虐待を防止するための取り組み

虐待は日常的に繰り返すうちに慣れてしまい、よりエスカレートしていくといわれています。
高齢者への虐待を防止するためには、虐待の初期段階で迅速に対応することが重要です。

2005(平成17)年に高齢者虐待防止法ができ、2006(平成18)年4月から施行されています。
虐待を受けたと思われる65歳以上の高齢者を発見した場合、市町村に通報することが義務づけられています。

また、政府は全国の知事に対し、

  • 虐待についての相談窓口の設置、報告手順の標準化
  • 職員に対する研修と、虐待の早期発見への体制強化
  • 初期段階における迅速かつ適切な対応
  • 地域の実情に応じた体制整備の充実

これらの4項目を通知し、各自治体に虐待への対応を求めています。

各市町村や、地域包括支援センターなどに相談すれば、適切なアドバイスを受けられる場合があります。

当事者はもちろん周囲の家族も、虐待について相談できる相談窓口の連絡先を確認しておきましょう。

まとめ

高齢者虐待は、被介護者が虐待されていることを自覚できていなかったり、逆に認知症による被害妄想だったりする可能性もあるため、虐待かどうか判断がつきにくい時があります。
また、介護施設では被介護者を危険な行動から守る場合に、必要に応じて拘束したり薬を飲ませたりしなければいけない場合もあります。

しかし、実際に虐待は年々増加しているのが現状です。
大切な家族を預けている場合、自分の家族は関係ないと思わずに常に当事者意識を持っておきましょう。

家庭内で介護する場合には、多くの人に関わってもらうことが重要です。
1人で抱え込まずに介護スタッフや兄弟姉妹や親せきなどにも頼り、複数人のチームで介護をし、できるだけ負担を分散させましょう。