認知症による食事拒否が起こる理由は?種類や傾向・対応方法も解説

認知症の全知識

この記事では、認知症による食事拒否が起こる理由や種類・傾向、対応について解説していきます。

この記事を最後まで読み終えていただけたら、再度食事を楽しめるようになる、適切なサポートの方法がわかります。認知症による食事拒否でお悩みの人は、ぜひ参考にしてください。

【この記事でわかること】

● 認知症による食事拒否が起こる理由

● 認知症による食事拒否の種類と傾向

● 認知症による食事拒否の対応5選

● 認知症の食事拒否に関するよくある質問

認知症による食事拒否が起こる理由

バランスの整った食事は、健康的な生活を送るうえで大切なものです。介護中の家族が食事を摂らなくなってしまい、心配に感じている人は少なくありません。

認知症による食事拒否が起こる理由は以下の通りです。

  • 食べ方がわからない
  • 食べ物かどうかを判断できない
  • 嚥下機能が低下している
  • 口腔トラブルによるストレスが生じている
  • 食事する環境に問題がある

上記5つの理由について解説していくので、当てはまるものはないかチェックしてみましょう。

食べ方がわからない

認知症の人は、「失行」といわれる、これまで当たり前にできていた行動ができなくなってしまう場合があります。

食事の場面における失行では、お箸の持ち方や使い方だけでなく、口の中に入れた食べ物を噛んで食べる動作そのものを忘れてしまいます。

視覚や運動機能に異常がないにもかかわらず、食事動作ができなくなってしまうでしょう。

失行が原因で食べ方がわからなくなっている人は、以下のような行動が見られます。

  • 特定のものだけ食べようとしない
  • 食べようとはしているものの箸が進まず戸惑っている
  • 箸を使わずに手づかみで食べてしまうことがある

本人の目の前で、ゆっくり食事している様子を見せることで、様子を真似して食べ始めることがあります。

食べ物かどうかを判断できない

認知症の症状のひとつに、目の前にあるものが何かわからなくなってしまう「失認」があります。そのため、食べ物を正しく認識できず、食事を拒否しているのかもしれません。

通常、味噌汁を泥水と間違えることはありませんが、認知機能が低下している認知症の人にとっては、味噌汁を見ても「泥水のようだ」と感じる場合があります。

食事を提供した際に、以下のような行動がないか確認してみましょう。

  • 食べ物に手を付けようとしない
  • 時間が経つと食べ物で遊び始めてしまう
  • 食べ物を放り投げてしまう

食べ物であることを認識してもらうためには、食事の際にメニューや味付けの説明といった声掛けがポイントです。

目の前にあるものが食事だとわかり、安心して食べられるように援助しましょう。

嚥下機能が低下している

認知機能の低下に伴い、嚥下機能が低下しているケースもゼロではありません。

嚥下障害では、スムーズに飲食物を飲み込めないため、食道ではなく気管に飲食物が入り込んでしまいます。

激しいむせこみから苦痛が生じたトラウマがあり、食事を避けてしまう場合があります。

誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあるので、食事中のむせこみや咳が多いようであれば、医師に相談すると良いでしょう、

口腔トラブルによるストレスが生じている

虫歯や義歯のかみ合わせが悪い口内炎があるなど、口腔トラブルを抱えている人もいます。しかし、認知症のため口の中の違和感や痛みを伝えられず、困っているかもしれません。

また、舌苔(下表面の汚れ)が分厚く付着していると味が感じにくくなり、しっかりと味わえていない場合もあります。定期的に歯科検診を受け、口腔トラブルがないか確認しましょう。

もしも、かかりつけの歯医者まで通うことが難しい場合、訪問歯科の利用もおすすめです。

食事する環境に問題がある

認知症の人は、周囲の環境による影響を受けやすく集中力が続きにくい傾向にあります。そのため、心地よく安心できる環境でないと、食事を拒否してしまう場合があります。

認知症の人が食事拒否につながりやすい環境は、主に以下の通りです。

周囲の状況による外部環境 ● 照明が明るすぎる、もしくは暗すぎる

● 騒音やテレビの音が耳障り

● 食卓の花や壁のポスターが気になる

心や身体による内部環境 ● 体のどこかに痛い箇所がある

● 食事の姿勢を取るのが辛い

● 便秘でお腹が張っている

● 眠くて意識がぼんやりとしている

気が散って食事に取り組めていないようであれば、本人の生活習慣に合わせ落ち着いて過ごせるように環境を調整しましょう。

また、体調の変化を注意深く観察し、気になる症状があればかかりつけの医師の受診を検討してください。

認知症による食事拒否の種類と傾向

認知症による食事拒否は主に3つの種類に分けられ、現れやすい症状や進行の仕方などが異なります。食事拒否も、全ての認知症で同じように症状が現れるわけではないので注意しましょう。

ここでは、認知症による食事拒否の種類と傾向を紹介します。

  • レビー小体型認知症
  • アルツハイマー型認知症
  • 血管性認知症

上記3つの認知症についてそれぞれ詳しく解説していくので、要介護者に該当する認知症を確認してみましょう。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は認知症全体のうち、およそ20%です。レビー小体といわれる神経細胞にできる特殊なたんぱく質の増加によって、神経を上手く伝えられなくなり認知症が現れます。

レビー小体型認知症の人に食事拒否が起こる原因や、現れやすい症状は以下の通りです。

食事拒否が起こる原因 ● 幻視やパーキンソン病のような症状が現れる
現れやすい症状 ● 手の震えによってお箸やスプーンを使にくい

● 幻視によって料理の中に虫が入っているように見える

● ぼんやりしていて食事に集中できない

レビー小体型認知症では、物忘れより幻視が見られやすくなります。また、ぼんやりしていて過ごしていたり、ずっと寝ていたりするケースも少なくありません。

幻視が見えている際は、気持ちに寄り添うような声かけを意識し、はっきりしているタイミングで食事を提供しましょう。

レビー小体型認知症とは|特徴・症状の改善策・有効な薬など|認知症ねっと

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も患者数が多い病気です。脳の中にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が溜まり、正常な脳の神経細胞を壊して脳が萎縮します。

アルツハイマー型認知症の人に食事拒否が起こる原因や、現れやすい症状は以下の通りです。

食事拒否が起こる原因 ● 脳全体が萎縮して認知機能が低下して症状が現れる
現れやすい症状 ● 失認によって食べ物を認識できない

● 失行でお箸の持ち方や使い方がわからない

アルツハイマー型認知症の代表的な症状は記憶障害や見当識障害ですが、進行するにつれて理解力や判断力が低下します。

食事を拒否しているからといって無理強いせず、安心できる言葉かけや、生活しやすい環境調整を心がけましょう。

※参考:アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)とは|初期症状や予防法など|認知症ねっと

血管性認知症

血管性認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで多い種類です。

脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血が原因で、脳の細胞に酸素や栄養が送られなくなり、ダメージを受けた結果、脳の機能の一部を失います。

血管性認知症の人に食事拒否が起こる原因や、現れやすい症状は以下の通りです。

食事拒否が起こる原因 ● 脳梗塞や脳出血などによってダメージを受けた部位ごとに症状が現れる
現れやすい症状 ● 身体の麻痺によってお箸やスプーンを使うのが難しい

● 麻痺によって口が開きにくかったり、咀嚼しにくい

● 集中力が途切れやすくなる

● 失行でお箸の持ち方や使い方がわからない

血管性認知症は、意識がぼんやりしていて何もできない時もあれば、意識がはっきりしている時もあり、症状がまだらに現れる特徴があります。

落ち着いて食事に取り組めるタイミングで、食事に促すのも有効でしょう。

※参考:脳血管性認知症とは:アルツハイマー型との違い・症状・予防法など|認知症ねっと

認知症による食事拒否の対応5選

食事拒否による摂取量低下は、体重の減少や低栄養、貧血、骨粗しょう症といった健康リスクが高まります。そのため、必要な食事量や栄養素が摂れるように適切なサポートが必要です。

認知症による食事拒否の対応は、主に以下の通りです。

  • 食事の盛り付けを工夫する
  • 食器を変更する
  • 食事環境を変更する
  • 本人の意思を尊重し無理強いは避ける
  • 被介護者の体勢に注意する

順番に解説していきます。

食事の盛り付けを工夫する

食事の見た目の悪さや、においがしないことを理由に食事を拒否する場合があります。

白米に彩りが鮮やかなふりかけを活用したり、炊き込みご飯にしたりなど見た目に色を加えると良いでしょう。季節の野菜を型抜きして、盛り付けるのもおすすめです。

食器を変更する

深さのある器だと、要介護者から盛り付けが見えにくく、手を付けないままになってしまうことがあります。

また、認知機能が低下している人は食器の柄と食べ物の区別がつきにくい傾向にあります。無地のシンプルな食器を選ぶと、盛り付けられた食事がはっきりと見えやすくなるでしょう。

お箸を上手く使えない人には、スプーンやフォークへ変更したり、自助具を活用したりなどがおすすめです。

食事環境を変更する

食事を摂る部屋の明るさや音といった環境に配慮し、落ち着いた環境を整えましょう。リラックスして食事に取り組みやすい環境を整えると、食事に集中しやすくなります。

「おいしいですか?」「よく噛んで食べてください」など、介護者が頻繁に声をかけすぎるとストレスにつながったり、誤嚥の原因になったりするので注意しましょう。

また、テーブルや椅子の高さを調整すると食べやすい姿勢を取れる上、誤嚥防止につながります。ただし、人によっては静かすぎる空間がかえって落ち着かない場合もあるので、様子を確認しながら食事環境を調整しましょう。

本人の意思を尊重し無理強いは避ける

認知症の人が食事を摂らないからといって、無理強いするのは避けましょう。

強引に食べさせようとしても、誤嚥のリスクを高めたり食事の時間がストレスとなったり、食事の拒否感をより強めてしまいます。

食事を抜くことに神経質になりすぎず、見守る姿勢を保つのも大切なポイントです。

被介護者の体勢に注意する

不適切な姿勢で食事を進めても、誤嚥につながりやすくなります。飲食物が気管に入り込まないように、お腹や腰に力が入りやすい姿勢を確保しましょう。

特に、腰痛や皮膚炎などがあって、椅子に腰かけた際に痛む人は、クッションや椅子を活用すると痛みの緩和に役立ちます。

認知症の食事拒否に関するよくある質問

最後に、認知症の食事拒否に関するよくある質問を紹介します。

  • 認知症の食事拒否は治療できる?
  • 認知症の食事拒否が生じた場合の寿命は?

順番に回答します。

認知症の食事拒否は治療できる?

認知症の食事拒否そのものに、有効な治療方法はありません。ただし、認知症の進行や症状を和らげる薬(抗認知症薬)によって、スムーズな食事をサポートできます。

また、箸の使い方がわからない人には作業療法のリハビリテーションがおすすめです。どうしても経口摂取が困難であれば、胃ろうや中心静脈栄養も選択肢に入ります。

食事拒否以外にも、認知症の症状で日常生活に支障をきたしているようであれば、治療を検討してみると良いでしょう。

認知症の食事拒否が生じた場合の寿命は?

認知症そのものの平均的な生存年数(寿命)は、おおむね5〜12年とされています。日本の研究によると、認知症におけるそれぞれの平均的な生存率は以下の通りです。

  • アルツハイマー型認知症:18.9%
  • 血管性認知症:13.2%
  • レビー小体型認知症:2.2%

※期間を10年とした場合の生存率

※参考:認知症の生存率|日本保険医学会誌 第116巻第2号(2018)

認知症初期の段階では、物忘れや見当識障害を中心として症状が現れるため、食事拒否は認知症中期〜後期にかけて現れやすいといえます。

食事拒否の症状が表れてから寿命を迎えるまで、平均的な生存年数を下回るケースが大半です。

認知症による食事拒否を改善するためには

認知症の人が食事を拒否する理由は、食べ方がわからない、食べ物を認識できないといった認知症ならではの症状であることがほとんどです。

また、認知症の種類ごとに、食事拒否の症状の現れ方が異なります。

食事拒否によって、食事の摂取量が低下すると健康面に影響を及ぼす可能性があるため、食事の盛り付けの工夫や食器の変更を検討してみましょう。

ただし、無理強いすると食事への拒否感を強めてしまう場合もあるので、本人の意思を尊重して見守ることも大切です。