高齢者への支援のポイント
認知症の症状と言われて、物忘れを思い浮かべる方は多いでしょう。医療機関にも「物忘れ外来」があり、物忘れが気になりはじめた方やその家族の相談窓口となっています。しかし、物忘れがあるからといって認知症とは限りません。認知症の物忘れのほかに、加齢に伴う物忘れもあるのです。二つの「物忘れ」の違いや特徴といった認知症予防につながる基礎知識をご紹介します。
物忘れには二つの種類がある
人の記憶は、大脳皮質と大脳辺縁系の神経細胞であるニューロンによって、蓄積することが可能です。ニューロンはシナプスという連結機関でつながり、神経伝達物質を介して、情報と身体との伝達を行っています。
加齢によってシナプスは損壊し、神経伝達物質の量も減少してしまうのです。60代になると多くの方が、記憶力・判断力・適応力に衰えを感じるようになり、「物忘れが多い」と感じることが増えるでしょう。しかし、これは誰にでも起こるものであり、認知症ではありません。主に大脳皮質における脳の萎縮が原因のため、脳細胞の活性化を行うことで記憶力の維持が可能です。
一方で、アルツハイマー型認知症は、特定のタンパク質の蓄積によって神経細胞が破壊されるため起こると言われています。一般的なアルツハイマー型認知症の場合、発症初期に「新しい記憶」をつかさどる海馬と呼ばれる部分が、病変起きることも特徴です。二つの物忘れを間違えないために、それぞれの特徴を理解しておくようにしましょう。
加齢による物忘れの特徴とは
加齢による物忘れの場合は、忘れているのは体験の一部分であり、「なにかを忘れている」という自覚があります。そして、忘れたことについてのヒントが与えられれば、再び思い出すことが可能です。他の日常生活に支障は見られず、判断力の低下もありません。
加齢による物忘れは、先ほど説明したように、シナプスの破損と神経伝達物質の減少によって発生した脳の萎縮が原因です。神経細胞が完全に壊されていないため、シナプスを活性化させることで、忘れていた記憶を思い出すことができるのです。
認知症による物忘れの特徴とは
アルツハイマー型認知症による物忘れは、対象の記憶自体が全くないため、物忘れをした自覚がありません。関連した出来事自体を忘れている、もしくは記憶していないという状態で、ヒントを出されても思い出すことはできません。
また、物をどこかにしまったことを忘れた場合、当人は「物が突然なくなった」と考えがちです。周囲の家族や知人のせいにするといった判断力の低下も見られるため、日常生活に支障が出ることが考えられます。
アルツハイマー型認知症の場合、海馬が担う「新しい記憶」から失われていきます。神経細胞が壊されてしまうので、思い出すことが不可能ということが、認知症の物忘れです。
違和感を覚えたらすぐ病院に行こう
「物忘れ」は程度の差はあれ、誰にでも起きる症状です。アルツハイマー型認知症の場合でも、本格的な症状が現れる前に、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる症状が見られることがあります。この段階で早期治療を行えれば、その後の認知症への移行を大幅に遅らせることや、発症自体を予防することにもつながります。
認知症は症状の進行を抑えることはできますが、明確な治療法はありません。がんと同じように、早期発見・早期治療が重要です。本人が病気と認識できる段階での診断は、とても大切になってきます。「何かがおかしい」と感じたときは病院に行き、診察するようにしましょう。
脳の活性化を保つためには、脳の健康を考えた生活習慣が大切です。運動のためにウォーキングをしたり、睡眠を7時間とったり、規則正しい生活を送るようにしましょう。また、お酒やタバコのような悪い習慣を改め、自分の生活を見直し、認知症予防に繋げるよう心がけてみてください。