親の介護を理由に退職はできる?辞めるデメリットや両立できる制度を紹介

介護中の生活

この記事では、親の介護を理由とした退職の可否について解説します。

親の介護をしながら仕事をしている人のなかには、介護と仕事の両立を辛く感じて介護を理由に退職しようと悩んでいる人は少なくありません。

しかし、経済的な面を考えると、退職を踏みとどまらなければならないケースもあります。

そこで本記事では、親の介護を理由に退職するメリット・デメリットと併せて、仕事と介護を両立させる制度などを詳しく解説します。

この記事を最後まで読み終えていただくと、仕事を退職せずに介護と両立させるコツがわかるでしょう。親の介護と仕事の両立で悩んでいる人は、本記事をぜひ参考にしてください。

【この記事でわかること】

● 親の介護による退職(介護離職)の実態

● 親の介護を理由に退職するデメリット

● 親の介護を理由に退職するメリット

● 退職せずに仕事と親の介護を両立できる制度

● 親の介護を理由に退職する前にできること

親の介護による退職(介護離職)の実態

内閣府によると、介護・看護が理由の退職者は、平成28年10月から平成29年9月までの1年間で9.9万人程度でした。

平成29年以降も高齢化が進んでいるため、今後も介護離職の増加は見込まれます。

また、厚生労働省の調査によると、手助・介護を機に退職した理由について、「仕事と『手助・介護』の両⽴が難しい職場だったため」が59.4%と最も多い結果になりました。次いで、「『手助・介護』をする家族・親族が自分しかいなかったため」が17.6%でした。

退職を選んだ多くの人が、在宅介護と仕事の両立に難しさを感じていたことがわかります。

※参考1:2 健康・福祉丨令和4年版高齢社会白書(全体版)丨内閣府

※参考2:令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 報告書丨厚生労働省

親の介護を理由に退職するデメリット

親の介護を理由に退職すると、さまざまなデメリットが生じるおそれがあります。

  • 収入が不安定になる
  • キャリア形成に悪影響が生じる
  • 社会的に孤立すると介護や将来への不安が生まれる

上記3つのデメリットを解説するので、在宅介護に取り組んでいる人は確認してください。

収入が不安定になる

退職すると収入が途絶えるため、預貯金や親の年金で生活しなければなりません。

介護中はおむつをはじめとした介護用品の購入やレンタル代、介護サービスの利用料などの出費が増え、経済的に負担がかかります。

また、高齢の親の介護を担う40〜50代は働き盛りの世代であり、職場において重要なポジションを任せられるケースが多くあります。そのため、介護離職前と同じポジションでの再就職は難しく、働き口がなかなか見つからないでしょう。

社会とのつながりを持たずに介護中心の生活を送っていると、将来への不安を感じやすく、余計に収入面の不安定さが気になります。

キャリア形成に悪影響が生じる

介護離職をすると、これまで積み上げてきた仕事のキャリアが分断されます。ブランク期間が長引けば、役職や年収が下がりやすくなります。

また、復職してから新たにキャリアを築こうとしても、年齢によっては思い描いていたキャリアからかけ離れてしまうケースがあるでしょう。

元々仕事にやりがいを感じていた人にとって、これまでのキャリアを手放すのは大きなデメリットといえます。

社会的に孤立すると介護や将来への不安が生まれる

介護期間の長期化は珍しくなく、介護生活に見通しが立たないことで不安が生まれやすいです。

介護中心の生活によるストレスを相談できる相手がいないと、孤立した生活は不安感を強めるでしょう。

また、介護離職によって収入源が絶たれると、「今後も貯金で生活していけるだろうか」、「介護が終わった後の生活はどうなるのだろう」といった不安にもつながります。

将来への不安や介護疲れは介護者の精神的な負担となり、介護が原因でメンタル疾患を発症する人は少なくありません。

親の介護を理由に退職するメリット

親の介護を理由に退職するメリットは、以下の通りです。

  • 介護費用が削減できる
  • 時間的・精神的な余裕が生まれる

上記2つのメリットを詳しく解説します。

介護費用が削減できる

介護離職によって家族が介護の担い手になれば、介護サービスを利用する必要性が少なくなり、介護サービスにかかっていた費用を削減できるでしょう。

また、要介護4もしくは5の要介護者を介護する家庭で要介護者が1年間介護サービスを利用しなかった場合、”家族介護慰労金”の支給対象となります。

家族介護慰労金の支給金額や支給条件は市町村によって異なるため、あらかじめ住んでいる地域の自治体に確認することがおすすめです。

ただし、要介護者の心身の状態によっては介護サービスの利用が必須となるうえ、介護者の負担軽減のために介護サービスが必要な状況もあるので注意してください。

時間的・精神的な余裕が生まれる

介護離職によって仕事の負担がなくなれば、介護に集中できます。介護と仕事の両立にストレスを感じていた人には、時間的・精神的な余裕が生まれるでしょう。

また、介護に集中できるため、介護に時間を割けないことで罪悪感を覚えていた人も気持ちが楽になります。

要介護者と積極的にコミュニケーションを取りながら介護に取り組めるので、介護が終わった後の「やりきった」という達成感にもつながります。

退職せずに仕事と親の介護を両立できる制度

退職しなくても仕事の負担を減らすことで、介護と仕事を両立しやすくなります。

  • 介護休暇
  • 介護休業
  • 所定外労働の制限
  • 時間外労働の制限
  • 深夜労働の制限
  • 短時間勤務制度

退職せずに仕事と親の介護を両立するための上記6つの制度を解説します。

介護休暇

介護休暇を利用すれば、要介護状態にある家族を介護するために短期間の休暇を取得できます。

対象の家族1人につき、1年ごとに5日まで取得でき、1日または時間単位での取得が可能です。

対象となる労働者や家族、申請方法を下記にまとめました。

対象となる労働者 ● 対象家族を介護する従業員
申請方法 ● 口頭での申請が可能

● 職場によっては申請書が用意されている

通院の付き添いや要介護者の体調不良、ケアマネージャーとの面談など、介護に関する短時間の用事に利用することがおすすめです。

介護休業

介護休業とは、要介護状態にある家族を介護するために、長期間にわたって休暇を取得できる制度です。

対象家族1人につき3回まで、通算93日まで取得できるため、介護と仕事を両立させるための環境を整える期間として活用できます。

対象となる労働者や申請方法は以下の通りです。

対象となる労働者 ● 同一の事業者に1年以上雇用されている

● 介護休業取得予定から起算して、93日を経過する日から、6ヶ月後までに契約期間が満了・更新されない

申請方法 ● 開始予定日・終了予定日を決めたうえで、開始2週間前までに職場へ書面で申請

賃金については、法的な定めがないので会社の規定に従いましょう。

雇用保険の被保険者で要件を満たす人には、介護休業給付金が支給されます。給付金の目安は、”休業開始時賃金日額×支給日数×67%”です。

ただし、介護休業期間中でも社会保険料・住民税の支払いが必要なため注意してください。

所定外労働の制限

労働者が要介護状態にある家族を介護するために、所定労働時間(残業)が免除されます。

1ヶ月以上1年以内の期間で利用でき、回数の制限はありません。

対象となる労働者と申請方法は以下の通りです。

対象となる労働者 ● 対象家族を介護する従業員
申請方法 ● 開始予定日1ヶ月前までに会社へ書面などで申請

事業に支障をきたす場合は事業主が労働者の請求を拒否できるので、利用期間中は注意しましょう。

時間外労働の制限

労働者は要介護状態にある家族を介護するために、1ヶ月24時間、1年150時間を超える時間外労働が免除されます。1ヶ月以上1年以内の期間で利用でき、回数制限はありません。

対象となる労働者と申請方法は以下の通りです。

対象となる労働者 ● 対象家族を介護する従業員
申請方法 ● 開始予定日1ヶ月前までに会社へ書面などで申請

所定外労働の制限と同様に、事業の妨げがある場合に事業主は労働者の請求を拒めます。

深夜労働の制限

深夜(午後10時〜午前5時)の勤務が免除される制度です。1ヶ月以上6ヶ月以内の期間で利用でき、回数の制限はありません。

対象となる労働者と申請方法は以下の通りです。

対象となる労働者 ● 対象家族を介護する従業員だが、以下の労働者は除外

○ 日雇いの従業員

○ 入社1年未満

○ 1週間の所定労働時間が2日以下

○ 所定労働時間が深夜

○ 介護ができる16歳以上の同居家族がいる

申請方法 ● 開始予定日1ヶ月前までに会社へ書面などで申請

対象にならない労働者の条件が多いため、該当しているかしっかり確認しましょう。

短時間勤務制度

労働者が要介護状態にある家族を介護するために、所定労働時間が短縮できます。

所定労働時間の短縮に該当するのは以下の通りです。

  • フレックスタイム
  • 短時間勤務
  • 時差出勤
  • 介護費用の助成措置

対象家族1人につき、利用開始日から連続して3年以上の期間で、2回以上取得できます。

「介護休業の前後に利用して介護負担を軽減する」といった利用方法でも問題ありません。

対象となる労働者や申請方法を確認しましょう。

対象となる労働者 ● 対象家族を介護する従業員
申請方法 ● 会社によって異なるため、会社ごとの規定に従う

短時間勤務ではフルタイム勤務より給料が下がってしまうので、収入面が心配な人は職場に確認しておくと安心です。

親の介護を理由に退職する前にできること

先述した通り、介護離職にはメリットがある一方でデメリットも多くあります。「介護に集中したいから」という理由だけで、すぐに介護離職に踏み切ることはおすすめできません。

ここでは、親の介護を理由に退職する前にできる以下4つの手段を解説します。

  • 介護支援サービスの利用を検討する
  • 信頼できる周囲の人に相談する
  • 介護することを職場に相談する
  • 相談窓口を利用する

順番に見ていきましょう。

介護支援サービスの利用を検討する

介護支援サービスには、介護保険が適用されるサービスと全額自己負担となる介護保険外のサービスがあります。

在宅介護で利用できる、代表的な介護保険サービスは以下3つです。

  • 訪問介護・訪問看護
  • デイサービスやデイケア
  • ショートステイ

介護サービスは所得に応じて1〜3割負担で収まるので、経済的な負担も気にならないといえます。また、介護保険外サービスは、介護サービスで適用されない部分を補えます。

  • 家事代行サービス
  • 旅行・外出支援サービス

普段の生活から趣味の範疇まで幅広いサービスを提供しており、介護負担の軽減につながります。

近年では、自治体が独自に運営しているサービスもあり、介護サービスと同様に1〜3割の自己負担で済むケースが多くあります。介護支援サービスは、介護そのものの負担を減らせるだけでなく、介護者・要介護者の双方にとってリフレッシュできる時間を作れるでしょう。

特に、介護者にとって介護から離れた時間があれば介護疲れの防止に役立ちます。

信頼できる周囲の人に相談する

家族・親族や友人など、身近に相談できる人がいれば遠慮せずに頼りましょう。相談できそうな家族・親族などがいなければ、担当のケアマネージャーでも問題ありません。

介護者のみで介護の問題を抱え込むと、考え方が偏ってしまいます。周囲に相談や協力を求めたほうが、仕事と介護を両立させるための選択肢が広がりやすいでしょう。

介護することを職場に相談する

在宅介護をしていると、要介護者の体調不良や介護サービスの利用状況に応じて、休暇の取得や遅刻・早退を余儀なくされる場合があります。

このような遅刻や早退は、「周囲に迷惑をかけている」という申し訳なさや職場での居心地の悪さを感じる原因の1つです。

あらかじめ在宅介護に取り組んでいることを職場に伝えておけば、周囲から理解を得られやすく、休暇の取得や突然の早退・遅刻にも応じてもらいやすくなります。

また、介護と仕事を両立しやすくなるように、以下のような対応を申し出ることも可能です。

  • 介護休暇の取得
  • 短時間勤務への切り替え
  • 業務量の調整
  • 残業が少ない部署への配置移動

会社で独自の制度を設けていることもあるため、利用できる制度を最大限活用しましょう。

相談窓口を利用する

家族中心で介護に取り組んでいると、介護に関する問題を家族内で抱え込みやすくなります。

相談窓口を利用して、問題解決をはかることが大切です。

介護に関する相談窓口として、以下のような施設・機関が挙げられます。

利用できるサービスや制度について情報を提供してもらえるだけでなく、介護サービス事業者に関する不満やクレームなども相談できます。

「周囲の人に気軽に相談できない」「公的な機関でしっかり相談したい」という人はぜひ利用してみましょう。

親の介護が理由の退職に関するよくある質問

ここでは、親の介護が理由の退職に関してよくある質問に回答します。

  • 親の介護で退職したら失業保険はもらえる?
  • 親の介護が理由の場合は即日退職できる?
  • 親の介護で退職するときの伝え方は?

順番に見ていきましょう。

親の介護で退職したら失業保険はもらえる?

親の介護を理由に退職した場合、”特定理由離職者”として失業保険が給付されます。その場合は支給開始日が優遇されるため、通常の自己都合退職よりも早く給付されるでしょう。

ただし、必ず失業保険を受け取れるわけではなく、以下の条件を満たす必要があります。

  • 退職日を含めた過去2年間で12ヶ月以上雇用保険に加入している
  • 再就職する意思がある
  • 就職活動を積極的に行っている

失業保険は無期限で給付されないので、給付が終了するまでに収入面の不安を解消しておきましょう。

親の介護が理由の場合は即日退職できる?

労働基準法上は退職2週間前に申告するように定めていますが、職場の同意があれば親の介護を理由に即日退職が可能です。

親の介護は緊急度が高いため、即日退職を受け入れてもらえる可能性が高いといえます。職場に相談してみて同意が得られない場合、有給休暇を取得して退職日まで過ごす選択肢があります。

親の介護で退職するときの伝え方は?

親の介護で退職する際、スムーズに退職できるよう伝え方を工夫する必要があります。

  • デリケートな問題であるため病名は伏せる
  • 毅然とした態度で退職を申し出る
  • 介護に伴って転居の必要性がある場合は伝える
  • 引き止めに遭ったら病名を伝えて診断書を提出する

家族の病気や体調不良はデリケートな問題であるため、あえて伝える必要はありません。

職場から詳しい説明を求められても、「プライベートな話ですので」と伝えましょう。

上記のように伝えても、失業保険の給付に影響することはないので安心してください。

ただし、強い引き止めに遭って退職させてもらえないようであれば、診断書の提出を視野に入れると良いでしょう。

親の介護が生じたら両立できるかを判断しよう

介護離職をすると親の介護に集中して取り組める一方で、収入が不安定になりキャリア形成が分断されるなどのデメリットが生じます。

介護離職してしまうとキャリア復帰が困難になるため、慎重に考えたうえでの判断が大切です。

退職する前に、本記事で紹介した仕事と介護を両立させる制度を確認しましょう。

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