親の介護は放棄できない?扶養義務や放棄したいと感じた際の対処法を解説

介護中の生活

「親の介護が辛いので放棄したい…」とお悩みの人は多いのではないでしょうか。ここでは、親の介護放棄が起きてしまう原因や対処法などを詳しく解説していきます。

この記事を最後まで読み終えていただけたら、親の介護を放棄せずに済む方法がわかります。親の介護に疲れてしまった人は、ぜひ参考にしてください。

【この記事でわかること】

● そもそも介護放棄が起きてしまう原因は?

● 親の介護は放棄できない

● 親の介護を放棄したいと感じた際の対処法

● 親の介護を放棄すると罪に問われるのか

そもそも介護放棄が起きてしまう原因は?

介護放棄とは、介護を必要としている状態の高齢者のケアや身の回りの世話を放棄することを指します。介護放棄にあたるのは、以下のような行為です。

  • 食事を与えない
  • 汚れたおむつ交換を放棄する
  • 長期間入浴させない
  • 医療機関を受診させない
  • 存在を無視してコミュニケーションをとらない

要介護者を残したまま引っ越したり、家庭内暴力に発展したりするケースも少なくありません。親の介護放棄が起きてしまう原因は、主に以下の通りです。

  • 経済的に厳しい状況が続くため
  • 被介護者の状態が悪化するため
  • 被介護者に対する気持ちの変化が生じるため

上記3つの原因について解説していくので、確認してみましょう。

経済的に厳しい状況が続くため

経済的に追い込まれたストレスから、介護放棄につながる場合があります。在宅介護の負担を軽減するために、さまざまな介護保険サービスの利用を検討する介護者は少なくありません。

介護保険サービスは要介護度に応じた利用限度額が設けられており、介護度が高いほどサービスを利用しやすい仕組みになっています。

利用限度額内であれば、所得に応じて1〜2割自己負担しますが、限度額を超えた費用は全額自己負担しなければなりません。

また、介護中心の生活となることで、転職や時短勤務、休職を余儀なくされ収入が減額するケースもあります。

被介護者の状態が悪化するため

厚生労働省のデータ(※1)によると、平均的な全介護期間47.60ヶ月のうち、在宅介護期間は33.99ヶ月です。

期間が長くなるにつれて、要介護者の身体機能や認知機能は低下し、必要とする身の回りのケアやサポートが増えるでしょう。疲労やストレスが積み重なり、精神的・肉体的に負担がかかってしまう介護者は多くいます。

そのため、厚生労働省のデータ(※2)では、重度の認知症のある人や介護度の高い人は、介護放棄を受ける割合が高くなると報告されています。

長期化する在宅介護に悩む前に、介護保険サービスの利用を検討しましょう。

※参考1:仕事と介護の両立について(P40)|厚生労働省

※参考2:令和元年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果(P10)|厚生労働省

被介護者に対する気持ちの変化が生じるため

親子の関係性が元々良くなかった場合、前向きに介護に取り組めないケースがあります。

また、親との関係性が良くても、介護による生活への影響や負担を考慮して、「介護したくない」と考える人もいるでしょう。

親や介護そのものへのネガティブな気持ちから、介護放棄に陥ってしまいます。

親の介護は放棄できない

結論から述べると、原則として子は親の介護を放棄できません。なぜなら、民法877条第1項では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と定められているからです。

ここでは、親の介護を放棄できない詳しい理由を確認してみましょう。

  • 扶養義務者の範囲
  • 扶養義務者の優先順位
  • 扶養義務の内容

順番に解説します。

扶養義務者の範囲

民法877条第1項で定められている「直系血族」とは、要介護者と上下の関係にあたる親族です。高齢である親の場合、子や孫が該当します。

また、民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と、配偶者の扶養義務も定められています。

ただし、要介護者の配偶者も親族ではあるものの、法律上の扶養義務はありません。

扶養義務者の優先順位

法律上、同居の有無や兄弟姉妹の年齢といった、扶養義務者の優先順位は定められていません。要介護者と、扶養義務者の話し合いによって決められることが大半です。

話し合いによって優先順位が決まらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることとなります。

要介護者である親と絶縁しているなどの特別な事情があれば、調停における考慮材料とはなるものの、介護を放棄できる訳ではないので注意しましょう。

扶養義務の内容

親の介護では、子どもに「生活扶助義務」が発生します。生活扶助義務とは、扶養義務者自身の生活水準を保ちながら、「余力の範囲」で経済的に扶助するものです。

経済的な援助の内容には、生活費や介護施設への入居費用の援助が該当します。

扶養義務者が通常の生活を営めることを前提としているため、経済的に切り詰めて支援する必要はありません。

ただし、経済的な援助が難しい場合、同居して日常生活を介助するといった手段も認められているので安心してください。

親の介護を放棄したいと感じた際の対処法

介護疲れから「介護を放棄してしまいたい」と精神的に追い詰められてしまう人は多いのではないでしょうか。親の介護を放棄したいと感じた際の対処法は、主に以下の通りです。

  • 親族を頼る
  • 介護施設の入居を検討する
  • 地域包括支援センターに相談する
  • 裁判所や弁護士に相談する
  • 介護保険サービスを利用する

上記5つの対処法について解説していくので、確認していきましょう。

親族を頼る

親の介護に行き詰った際は、1人で抱え込まずに兄弟・姉妹や親族にサポートしてもらいましょう。

扶養義務は兄弟間で平等に発生するものであり、親の兄弟姉妹も扶養義務者に該当します。

もしも親族間で介護の分担について話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所で調停を起こすことも可能です。

介護施設の入居を検討する

在宅での介護を続けるのが難しい場合、施設への入居を検討するのもひとつの手段です。

種類 施設例 サービス内容
施設介護サービス ● 特別養護老人ホーム

● 介護老人保健施設

● 介護医療院

施設に入居して身の回りのケアや介護サービスなどを受ける

在宅介護は24時間続くので、介護を負担する家族には以下のような状況が想定されます。

  • 遅刻や早退、休みが増える
  • 介護中心の生活となるのでゆっくり休めない
  • 趣味やプライベートな時間を楽しめない

介護者の生活に大きな影響を及ぼす前に、施設の情報を集めておくのがおすすめです。

地域包括支援センターに相談する

自分以外に兄弟がいない場合や親族に頼れない場合、各市区町村にある地域包括支援センターに相談することもできます。

地域包括支援センターとは、地域に暮らす高齢者やその家族に対して、支援や介護に関する相談ができる窓口です。離れて暮らす場合、親の居住地の地域包括支援センターに相談します。

保健師や看護師、社会福祉士、主任ケアマネジャーといった、専門的な知識・経験をもつ職員から適切な意見や情報をもらえるので安心です。

どの機関に相談すればよいのかわからない場合に、頼りになる存在といえるでしょう。

裁判所や弁護士に相談する

親族内で介護の分担の不平等さが問題となり、話し合いがこじれてしまった場合、家庭裁判所に調停を申し立てることが可能です。

もしも調停の手続きで不安なことがあれば、弁護士に相談できます。

介護保険サービスを利用する

在宅介護の負担が大きいと感じるのであれば、介護保険サービスの利用を検討しましょう。介護保険サービスの種類は、主に以下の通りです。

種類 施設例 サービス内容
通所サービス ● デイサービス

● デイケア

日帰りで介護事業所に通い、機能訓練や身の回りのケアなどを受ける
訪問サービス ● 訪問介護

● 訪問看護

● 訪問リハビリテーション

職員が利用者の自宅を訪れて身体介護や生活援助などを受ける

介護保険サービスを受けるには、要介護認定が必要となります。

認定結果が要介護1以上の場合、居宅介護支援事業所のケアマネジャーにケアプランを作成してもらい、各種介護保険サービス事業者と契約してください。

親の介護を放棄すると罪に問われるのか

親の介護を放棄すると、以下のような罪に問われるおそれがあります。

罪名 詳しい内容
保護責任者遺棄罪

(刑法218条)

要介護状態にあることを知りながら放置した場合
保護責任者遺棄致死罪

(刑法219条)

要介護状態にあることを知りながら放置して、死亡した場合
保護責任者遺棄致傷罪

(刑法219条)

要介護状態にあることを知りながら放置して、怪我を負わせた場合

保護責任者遺棄罪の場合、3ヶ月以上5年以下の懲役に課せられる場合があります。

また、保護責任者遺棄致死罪や保護責任者遺棄致傷罪では、保護責任者遺棄罪よりも重い罪を問われるので注意してください。

全てのケースで罪に問われるとは限らないものの、親の介護の難しさを感じたら適切に対処し、介護放棄とならないようにしましょう。

親の介護放棄に関するよくある質問

最後に、親の介護放棄に関するよくある質問を紹介します。

  • 親の介護を放棄したいときに縁を切る方法はある?
  • 介護しない兄弟を訴えることはできる?
  • 親の介護で起こりうる兄弟トラブルは?

順番に回答していきます。

親の介護を放棄したいときに縁を切る方法はある?

普通養子縁組した養親と養子であれば、当事者同士の協議によって離縁が可能です。しかし、原則として実親と実子の親子関係を切ることはできません。

以下のような場合でも、法律上の親子関係は残ります。

  • 勘当や絶縁して書面を作成する
  • 子どもが第三者と普通養子縁組を実施する

特に、子どもが普通養子縁組によって第三者の戸籍に入っても、実親との血液関係は継続します。

ただし、法的に親子の縁を切ることはできないものの、事実上縁を切るには「戸籍の分離」を選べます。

戸籍の分離とは、成人している子どもが在籍している戸籍を抜けて単独の戸籍を作る方法であり、親とは違う苗字を名乗ることが可能です。

介護しない兄弟を訴えることはできる?

兄弟のうちの一人に介護の負担が集中して、不公平感からトラブルに発展するケースは少なくありません。親の介護の分担について、兄弟間で話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に扶養料を求める「扶養請求調停」を申し立てることが可能です。

扶養請求調停を申し立てる際の必要書類や費用は、主に以下の通りです。

申し立てに必要な書類 ● 申立書(正本と写しを1通ずつ)

● 戸籍謄本(申立人と相手方のもの1通ずつ)

申し立てにかかる費用 ● 収入印紙1,200円(扶養権利者1人につき)

● 連絡用郵便切手(管轄裁判所ごとに費用は異なる)

調停で合意に至らず不成立となった場合、自動的に審判手続に移行して裁判官が審判を下します。

もしも扶養料を支払わなければ、相手方の給料や預貯金を差し押さえる強制執行も可能です。

親の介護で起こりうる兄弟トラブルは?

高齢である親の介護は、予期せぬタイミングで起こります。「兄弟姉妹間であらかじめ介護の方向性や分担について話し合えていない」というケースは少なくありません。

親の介護が必要となった際は、兄弟間で以下のようなトラブルが生じるおそれがあります。

  • 兄弟姉妹間で介護の負担を押し付け合って不満が生じる
  • 介護の方針をめぐって意見が対立する
  • 兄弟姉妹のうち1人に介護の負担が集中して介護放棄につながる
  • 介護費用の負担や遺産相続など金銭トラブルが発生する

また、事前に心構えができていても想定していた以上に負担が大きく心身を消耗してしまい、サポートを必要とする場合もあり得ます。

親の介護に取組む際は、状況を改善するために、兄弟姉妹間での話し合いを繰り返すことが大切です。

親の介護を放棄したいと感じたら早めに対策しよう

親の介護は、心身の負担だけでなく、経済的な負担も増えるため、疲労やストレスから介護放棄につながる場合があります。

この記事で解説したように、法律上で親の介護は放棄できず、扶養義務が定められています。

介護放棄そのものではなく、介護放棄によって親が怪我を負ったり、死亡したりした場合、罪に問われるかもしれません。

「親の介護を放棄したい」と感じたら、他の親族を頼ったり、地域包括支援センターに相談したりといった対処法を選びましょう。在宅での介護を無理に続けようとするのではなく、早いタイミングで施設入居を検討するのもおすすめです。

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