胃ろうの方を介護する際のポイントは?メリット・デメリットも解説

介護中の生活

「介護している家族が口から食事を摂れなくなった時、胃ろうを検討したい」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。

ここでは、胃ろうの方の介護のポイントや、胃ろうのメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

この記事を最後まで読み終えていただければ、スムーズに胃ろうを導入するのに役立つことでしょう。胃ろうの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

【この記事でわかること】

●  そもそも胃ろうとは?

●  胃ろうの方を介護する際のポイント

●  胃ろうのメリット

●  胃ろうのデメリット

●  胃ろうにおけるカテーテルの種類

●  胃ろうや介護に関するよくある質問

そもそも胃ろうとは?

胃ろうとは、胃に小さな穴を空けてお腹にカテーテルを通す処置です。カテーテルから直接栄養剤を注入し、栄養を補給することができます。

胃ろうの特徴は次の通りです。

  • 胃ろうの対象者
  • 胃ろうの方は介護施設への入居が困難なケースがある

胃ろうの特徴を解説していくので、確認してみましょう。

胃ろうの対象者

胃ろうは、胃から直接栄養剤を摂取します。対象者は、さまざまな理由によって口からの栄養摂取が困難となった方です。

  • 身体機能低下や重度の認知症がみられる方
  • 食べ物をうまく飲み込めない方
  • 食事でむせこんでしまう方

合併症のリスクが低く、身体への負担も少ないので長期的に栄養摂取が可能な方法といえます。

胃ろうの方は介護施設への入居が困難なケースがある

胃ろうに関する処置は、医療行為にあたります。そのため、処置を行えるのは医師や看護師、所定の研修を受けた介護職員です。

過去に介護職員は胃ろうの処置を行えませんでしたが、2012年の介護保険の改正によって、研修を受けることで介護職員も処置を行えるようになりました。

現在、胃ろうの方の受け入れが可能なデイサービスや老人ホームは増えつつあります。

しかし、受け入れ条件は施設によってさまざまです。

看護師が24時間常駐していない、研修を受けている介護職員が少ないといった理由から、介護施設への入居を断られてしまう場合があります。

胃ろうの方を介護する際のポイント

安全のために、胃ろうに方には適切な管理やケアを行う必要があります。

胃ろうの方を介護するポイントは次の通りです。

  • 姿勢をしっかりと正す
  • 胃ろう周辺の皮膚トラブルに気をつける
  • 器具の衛生面をしっかりと確認する
  • 口腔ケアを怠らない
  • 適した栄養剤を選ぶ

上記5つのポイントについて詳しく解説していくので、確認してみましょう。

姿勢をしっかりと正す

胃ろうの栄養剤は、注入後逆流してしまい、誤嚥性肺炎や窒息を招くおそれがあります。

上体を30〜90度起こした体勢で注入した後、30分〜1時間はそのままの姿勢を保ちましょう。

胃ろう周辺の皮膚トラブルに気をつける

胃ろう周辺の皮膚はトラブルが起こりやすいので、日頃から変化がないか観察しましょう。

観察のポイントは次の通りです。

  • 胃ろう周辺の皮膚に赤みやただれ、肉の盛り上がりはないか
  • 余分な水分で皮膚が濡れていないか
  • 漏れ出た栄養剤で汚れていないか
  • 皮膚がチューブに引っ張られていないか

皮膚トラブルの兆候に気付いたら、できるだけ早く医療機関の受診を検討しましょう。

器具の衛生面をしっかりと確認する

栄養剤を注入する際は、注入に用いる器具は清潔なものを使用しましょう。

汚れている器具を使用すると、栄養剤と共に雑菌が注入されてしまい、感染症や体調不良の原因となる場合があります。

また、器具だけでなく器具を取り扱う介護者自身の手指衛生にも注意が必要です。

口腔ケアを怠らない

栄養摂取の方法を胃ろうに切り替えると、口から食べ物を摂取する機会が少なくなります。

唾液の分泌が減少するため、口の中が汚れがちです。食事の誤嚥による誤嚥性肺炎のリスクは下がりますが、痰に絡んだ細菌を飲み込むことで誤嚥性肺炎を引き起こすおそれがあります。

したがって、口腔ケアを徹底して口腔内の清潔を保つように心がけましょう。

適した栄養剤を選ぶ

胃ろうに使用する栄養剤には2種類あります。

栄養剤の種類 特徴 おすすめの人
消化態栄養剤 たんぱく質がすでに分解されている 消化吸収能力が低い人
半消化態栄養剤 たんぱく質がそのままの状態 水分制限がある人

また、栄養剤の形態は3種類です。

栄養剤の形態 特徴
粉末タイプ 水に溶かして使用する
液状タイプ 水に溶かす手間が不要でそのまま使用できる
ゼリータイプ 逆流を防ぎやすいが、カテーテルによっては使用できない

介護施設や医療機関で多く用いられているのは液状タイプですが、本人の状態に合わせて適した栄養剤を選びましょう。

胃ろうのメリット

口から食事を摂るのが難しい方にとって、胃ろうに切り替えるとさまざまなメリットが得られます。胃ろうのメリットは次の通りです。

  • 必要な栄養素やカロリーを確保できる
  • 洋服で隠せる
  • 口から食事を摂れる
  • 運動やリハビリへの影響が少なく済む
  • 入浴ができる
  • 誤嚥性肺炎の予防が期待できる

上記6つのメリットについて、詳しく解説していきます。

必要な栄養素やカロリーを確保できる

口から食事を摂ることが難しい方は、充分な栄養素やカロリーが不足してしまい、栄養失調や体の不調を招くリスクが高くなりがちです。

胃ろうを造ることによって、身体を維持するのに必要な栄養素やカロリーを確保できます。

洋服で隠せる

胃ろうはお腹に穴を空けるため、洋服を着ると隠すことができます。

見た目の違和感がほとんどないので、周囲の視線を気にすることなく、日常生活を過ごせるだけでなく、外出を楽しむことも可能です。

ただし、衣類に隠れている際は胃ろうのトラブルに気付きにくいといえます。したがって、カテーテルが引っ張られていないか、ボタンの締め忘れはないかなどを確認しましょう。

口から食事を摂れる

胃ろうの手術を受けても、口から食事を摂ることはできます。

お腹にカテーテルを通しているので、口や鼻に栄養の管を挿入している時よりも食事がしやすいといえるでしょう。したがって、胃ろうは口からの食事を再開するための嚥下訓練やリハビリに適しています。

通常、口から食べたものが胃ろうから漏れ出てくる心配もありません。形態の柔らかいゼリーやプリン、とろみのついた飲み物は、飲み込みやすいのでおすすめです。

ただし、誤嚥性肺炎や窒息のリスクがあるので、自己判断で口からの食事を再開するのはおすすめできません。胃ろうを造った後に、口からの食事を再開する場合は医師に相談しましょう。

運動やリハビリへの影響が少なく済む

胃ろうがあっても、基本的な運動は可能です。

目立ちにくいので、運動やリハビリに悪影響を及ぼす可能性は少ないとされています。

入浴ができる

医師の許可があれば入浴が可能です。カテーテル周囲をフィルムで覆うといった、特別な処置は必要ありません。

カテーテル部分の皮膚にトラブルが起きないように、入浴時は丁寧に洗いましょう。とくに、キャップの締め忘れがないか注意が必要です。

皮膚トラブルを防ぐため、入浴後は皮膚の水気を拭き取り、しっかりと乾燥させてください。

誤嚥性肺炎の予防が期待できる

胃ろうは、嘔吐物や食物の誤嚥によって引き起こされる、「化学性の誤嚥性肺炎」の予防に役立つとされています。

ただし、胃ろうに切り替えることによって、誤嚥性肺炎そのもののリスクがなくなるわけではありません。

口から食事を摂らないと、口腔内の自浄作用が低下し、口腔内常在菌や上気道分泌物の誤嚥による「細菌性の誤嚥性肺炎」にかかるリスクが高まります。

身体の状態に応じて口から食事を摂ったり、適切な口腔ケアを行ったりすることで、誤嚥性肺炎のリスクを減らしましょう。

胃ろうのデメリット

胃ろうには生命や健康の維持に役立つメリットが多い反面、デメリットもあります。

  • 胃ろうを造る際に手術を受ける
  • 定期的な口腔ケアが必要になる
  • 栄養剤の逆流に注意する
  • 合併症を起こすリスクがある

メリットとあわせて、上記4つのデメリットも把握しながら導入を検討しましょう。

胃ろうを造る際に手術を受ける

胃ろうを造るには、胃に穴をあけてカテーテルを通す手術が必要です。

胃ろうを造る手術のことを、「PEG」と呼びます。内視鏡を用いて、手術時間は30分以内と短く、身体への負担は少なく済むでしょう。

「身体に穴をあける」という手術に、抵抗を感じる方は少なくありませんが、長期的な健康面を考慮すると胃ろうを造るメリットは多いといえます。

定期的な口腔ケアが必要になる

胃ろうの手術を受けた後は、定期的な口腔ケアが欠かせません。

口から食事を摂る機会が減ると、唾液の分泌量が少なくなるので、口腔内の自浄作用が低下しやすくなります。細菌が増加しやすいため、口臭や誤嚥性肺炎のリスクが高まる点に注意が必要です。

したがって、口の中を清潔に保ち唾液の分泌を促しましょう。

栄養剤の逆流に注意する

寝たままで栄養剤を注入すると、栄養剤が逆流し、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

注入する際は、30〜90度上体を起こして行いましょう。また、注入後30〜1時間程度、上体を起こしたままにしてください。

合併症を起こすリスクがある

胃ろうは、「感染症」や「凡発性腹膜炎」といった合併症を起こす可能性があります。

ただし、鼻にカテーテルを通して栄養を摂取する方法や点滴での栄養摂取に比べると、合併症のリスクは少ないとされています。

胃ろうを造ったら、日々の体調を観察し、カテーテル周囲の皮膚の状態や発熱、腹痛の訴えなどに気を配りましょう。

胃ろうにおけるカテーテルの種類

胃ろうは、カテーテルの種類によって使用方法や管理方法が異なります。

カテーテルの適切な使用・管理のために、カテーテルの種類について把握しておくことが大切です。

種類 特徴 交換頻度
バンパー・ボタン型 ボタン型なので肌からの突出部分が少なく、自己抜去が起こりにくい 4ヶ月に1回
バンパー・チューブ型 チューブ型なので、投与セットを接続せず、栄養ラインに接続できる 4ヶ月に1回
バルーン・ボタン型 ボタン型なので肌からの突出部分が少なく、自己抜去が起こりにくい 1ヶ月に1回
バルーン・チューブ型 チューブ型なので、投与セットを接続せず、栄養ラインに接続できる 1ヶ月に1回

胃ろうのカテーテルは胃に差し込んで抜け落ちないために、内部にストッパーがついています。

ストッパーの形状が風船のような形をしているものを「バルーンタイプ」、風船以外の形が「バンパータイプ」といいます。

また、ボタン型・チューブ型は定期的に交換が必要です。したがって、交換年月日を把握しておき、医師と相談して次回の交換日を決めましょう。

胃ろうや介護に関するよくある質問

胃ろうや介護に関するよくある質問は次の通りです。

  • 胃ろうをしないとどうなる?
  • 胃ろうにした場合に家族の負担はある?
  • 胃ろうにした場合の寿命は?

胃ろうは意識がはっきりしていない方や、重い認知症状のある方に対して延命処置のために行う場合があります。上記3つの質問も把握しながら、疑問の解決に役立てください。

胃ろうをしないとどうなる?

口から食事を摂れない方の場合、胃ろう以外に栄養を補給する方法として、鼻に管を通す方法(経鼻経管栄養)と、点滴(経静脈栄養)が選ばれます。

ただし、長期的な使用には向いていません。理由としては、主に以下が挙げられます。

  • 胃ろうよりも感染症や合併症のリスクが高い
  • 目につきやすいので、カテ―テルを自分で抜いてしまうことがある
  • 外出や写真撮影に抵抗を感じる

上記を踏まえると長期間にわたって、口からの食事以外の方法として栄養を補給したい場合、低リスクな胃ろうが望ましいとされています。

胃ろうにした場合に家族の負担はある?

基本的に、胃ろうには特別な処置は必要なく、日々の清潔保持が重要となります。

家族に大きな負担がかかる心配はありません。ただし、要介護者が重い認知症の場合、自分でカテーテルを引き抜いてしまい再度手術が必要になってしまうケースがあります。

カテーテルを引き抜いてしまう方に対しては、安全に胃ろうの管理が行えるようにタオルやガーゼで覆って身につかなくなるような配慮が必要です。

皮膚トラブルや感染症のリスクもゼロではないので、日頃の体調管理を心がけましょう。

胃ろうにした場合の寿命は?

胃ろうにした場合の平均的な余命は3年とされています。

本来、胃ろうは延命治療の意味合いが強く、本人の意思とは関係なく胃ろうを造っている場合も多いです。

胃ろうは、生命の維持や栄養状態の改善だけでなく、治療や機能回復も期待できるでしょう。実際に口からの食事が摂取できず、栄養失調により痩せていた方や寝たきりだった方が、胃ろうに切り替えてから体調が安定したというケースもあります。

要介護者が明確な意思を示せるうちに、胃ろうの造設に関する意思確認をしておくことも大切です。

本人の意思を確認・尊重したうえで胃ろうを導入しよう

口から食事を摂るのが難しくなった方にとって、胃ろうは長期的に安全に栄養を補給できる方法です。介護者の負担も少ないので、日々の適切な管理やケアによって維持することができます。

胃ろうを造った後も口から食事を摂ったり、運動や外出を楽しんだりと、社会性を保てるのも魅力的です。ただし、胃ろうは生命維持のため要介護者の意思とは関係なく導入されてしまう場合があります。

胃ろうの導入を検討する場合、本人の食事や最期のあり方に関する意思を確認し、尊重したうえで慎重に判断しましょう。