介護中の生活
初めての着脱介助で「着脱介助の手順はどうすればいいの?」と悩む方は多いことでしょう。
ここでは、着脱介助のコツや手順、必要な準備について詳しくご紹介します。本記事を最後まで読み終えていただければ、着脱介助に必要な手順やコツが分かりスムーズに着脱介助できます。
着脱介助の方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
【この記事でわかること】
● そもそも着脱介助とは? ● 着脱介助のコツ ● 着脱介助の手順 ● 着脱介助に必要な準備 ● 着脱介助する際の注意点 ● 着脱介助に関するよくある質問 |
そもそも着脱介助とは?
着脱介助とは、1人で衣類の着替えをうまく行えない方に対して、更衣の手伝いをすることです。
要介護者にはたくさんのメリットがあります。
- 皮膚を清潔な状態に保り、褥瘡といった肌トラブルを予防する
- 気分がリフレッシュする
- 単調な生活にメリハリが生まれ、1日の生活リズムが整いやすい
要介護者の生活水準を向上させられるので、必要に応じて着脱介助しましょう。
着脱介助のコツ
着脱の介助は、要介護者の身体に負担がかかってしまうので、コツをつかんで行う必要があります。
着脱介助のコツは次の通りです。
- 声かけしながら行う
- 着脱しやすい衣服を選ぶ
- 着患脱健を心がける
上記3つのコツについて詳しく解説するので、チェックしてみましょう。
声かけしながら行う
着脱介助する際は動作ごとに、要介護者に声をかけて誘導しましょう。声を掛けずに要介護者を介助すると、不安感を与えてしまいます。
また、無理な角度で手足を動かすと、関節を痛めてしまう場合があるので注意が必要です。
安全に着脱介助するためには、適切に声掛けをしながら進めていきましょう。
着脱しやすい衣服を選ぶ
着脱介助では、ゆったりとしていて伸縮性のある衣類を選びましょう。本人が気に入ったデザインの衣類は、気分転換につながります。
しかし、着脱しにくいデザインやサイズであると、身体を痛めてしまうおそれがあるので注意が必要です。
衣類選びに悩んだ場合は、介護用の着脱しやすいデザインの衣類を検討してみましょう。
着患脱健を心がける
「着患脱健」とは、「患側(かんそく)から着て、健側(けんそく)から脱ぐ」ことです。
麻痺のある方は、着患脱健を心がけることで、無理なく衣類の着脱が行えます。
着脱介助の手順
適切な手順を踏むことで、スムーズに着脱介助を行い、要介護者への負担を減らせます。
着脱介助の手順は次の通りです。
- 前開きの上着
- かぶり上着
- ズボン
- 寝たきりの場合
上記4つの手順について、詳しく解説していきます。
前開きの上着
麻痺のある方の着脱介助では、着患脱健の原則を守りましょう。
健側の腕を袖に通す際や抜くときに介助が必要なる場合が多いので、必要時サポートすることも大切です。
前開きの上着を脱衣させる場合の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 椅子やベッドに安定した姿勢で座ってもらう | ・足底がしっかりと床につく高さの椅子を選ぶ
・介護者は患側に立つ |
2 | 上着のボタンを外す | ・片手でも可能な方は自分で衣類のボタンを外してもらい、難しい場合は介助する |
3 | 健側の肩から上着を外し、袖を引き抜く | ・袖から腕を抜きやすくするために、肘を少し後ろに引いてもらう |
4 | 患側の肩から上着を外し、袖を引き抜く | 可能であれば健側の腕を使って自分で行ってもらう |
また、前開きの上着の着衣は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 椅子やベッドに安定した姿勢で座ってもらう | ・足底がしっかりと床につく高さの椅子を選ぶ
・介護者は患側に立つ ・上着のボタンは外しておく |
2 | 患側の腕を袖に通して、肩まで引き上げる | ・あらかじめ袖をたくし上げておくと、すんなりと腕を通しやすい
・可能であれば、健側の腕を使って自分で行ってもらう |
3 | 衣類を背中側から健側の腕まで回し、肩に羽織らせる | ・関節の拘縮があると腕を動かしにくいので、必要時サポートする |
4 | 健側の腕を袖に通す | 介護者が袖をたくし上げて通しやすくするとよい |
5 | できるだけ自分でボタンをかけてもらい、必要時サポートする | – |
6 | 衣類のシワなどを伸ばして整える |
着脱介助の後は、服の着心地や体調不良の有無などを確認しましょう。
かぶり上着
かぶり上着は、健側の肩関節の動きに不自由がない方であれば、ボタン留めの必要がないので楽に着脱できる衣類です。
ただし、頭を通しにくいので、伸縮性のある生地で、少し大きめのサイズを選びましょう。
かぶり上着を脱がす場合の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 椅子やベッドに安定した姿勢で座ってもらう | ・足底がしっかりと床につく高さの椅子を選ぶ
・介護者は患側に立つ |
2 | 健側の腕を抜く | ・上着の前身ごろと後見ごろをたくし上げ、健側の腕を袖から引き抜く |
3 | 顔に引っかからないように配慮しながら、頭を上着から引き抜く | – |
4 | 患側の腕から袖を引き抜く | ・健側の手で袖を持ち、引っ張るようにして抜いてもらう |
続いて、かぶり上着を着せる場合の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 椅子やベッドに安定した姿勢で座ってもらう | ・足底がしっかりと床につく高さの椅子を選ぶ
・介護者は患側に立つ |
2 | 患側の腕に上着の袖を通し、肩まで引き上げる | ・袖をたくし上げておくと通しやすい |
3 | 顔に引っかからないように配慮しながら、上着を頭からかぶってもらう | ・可能なら健側の腕で襟元を掴んで固定してもらう |
4 | 上着から頭を通せたら、健側の腕を袖に通してもらう | – |
5 | 見ごろを下まで下ろして整える | – |
着脱介助の後は、健側の肩関節に痛みは生じていないか尋ねましょう。
ズボン
ズボンの着脱は重心が移動する動作なので、バランスを崩しやすくなります。
特に片麻痺の方は、転倒しやすいので注意しましょう。
必要に応じて、要介護者にベッド柵を掴んでもらいましょう。
ズボンの脱衣の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 椅子やベッドに安定した姿勢で座ってもらう | ・足底がしっかりと床につく高さの椅子を選ぶ
・介護者は患側に立つ |
2 | ズボンのウエスト部分に手をかけて、膝近くまでズボンを下ろす | ・左右にお尻を浮かせてもらうと、お尻部分を通しやすい
・立位が可能な方であれば、一度立ってもらって膝のあたりまでズボンを下ろすとスムーズ |
3 | ズボンを足元まで下ろして健側から先に引き抜く | ・前かがみの姿勢を取れる方には、自分で行ってもらう
・可能であれば、健側の手で患側の足を支えて持ち上げてもらう |
続いて、ズボンの着衣の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 椅子やベッドに安定した姿勢で座ってもらう | ・足底がしっかりと床につく高さの椅子を選ぶ
・介護者は患側に立つ |
2 | 患側の足から先にズボンを通す | ・ズボンの裾をたくし上げて、裾に介助者の手を通す
・介護者の患側の足を優しく持ち上げ、足首に裾を通す ・可能であれば、健側の手で患側の足を持ち上げてもらう |
3 | 健側の足にズボンを通す | ・たくし上げたズボンの裾を健側の足に通す |
4 | ズボンをウエストまで引き上げる | ・左右にお尻を浮かせてもらうと、お尻部分を通しやすい
・立位が可能な方であれば、健側の手でズボンをウエストまで引き上げてもらう |
5 | ズレやしわを整える | – |
要介護者に立位をとってもらった場合は、立ちくらみによるめまいが生じていないか、声を掛けて尋ねましょう。
寝たきりの場合
寝たきりの方の衣類選びは、着脱しやすい前開きの上着がおすすめです。
また、上着の脱衣と着衣を同時進行で行うと体位変換が少ないので、要介護者の身体への負担を減らせます。
寝たきりの方の上着の着脱介助の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 仰向けになってもらい、上着のボタンを外す | – |
2 | 両肩から上着を脱がせる | – |
3 | 身体を横向きにして、上になっている側の腕を袖から抜く | ・脱がせた上着は丸めて要介護者の体の下に入れ込んでおくと、脱衣時に体の下に上着が敷きこまれてしまうのを防げる |
4 | 脱がせた腕に新しい上着の袖を肩まで通し、背中に羽織らせる | – |
5 | 仰向けに戻して、もう一方の腕から袖を抜けば脱衣は完了 | – |
6 | 「手順5」までとは反対側へ身体を横向きにして、新しい上着の袖を通す | – |
7 | 仰向けに戻ってもらい、ボタンを留める | – |
8 | ズレやシワを整える | – |
次に、寝たきりの方のズボンの着脱介助の手順は次の通りです。
手順 | 概要 | 補足 |
1 | 身体を横向きにして、片足ずつお尻の下までズボンを下げる | ・お尻を浮かせられる場合は、声掛けして協力をお願いする |
2 | 仰向けに戻し、少し膝を曲げた状態でズボンを抜き取って、脱衣は完了 | – |
3 | 少し膝を曲げたまま、たくし上げたズボンを片足ずつ通していく | – |
4 | 身体を横向きにして、上側になったお尻にズボンを着せる | – |
5 | 反対側に横向きになってもらい、もう一方のお尻までズボンを上げる | – |
6 | 身体を仰向けに戻し、上着や敷き布団のズレやシワを整える | – |
寝たきりの方の着脱介助は、体位変換によって疲労を感じやすいものです。
介助後は、体調の変化や疲労の有無を尋ねましょう。
さらに、寝たきりの方の衣類のシワは、褥瘡の原因につながります。
特に圧迫されやすい背中は、しっかりとしわを伸ばして、褥瘡予防に努めることも大切なポイントです。
着脱介助に必要な準備
着脱介助で必要な準備が揃っていないと、要介護者を待たせてしまったり、冷感を与えてしまう可能性があります。
事前に必要な準備を揃えておきましょう。
着脱介助に必要な準備は次の通りです。
- 着脱しやすい衣服
- 下着・靴下
- 塗り薬・貼り薬
- 体を隠せる大きさのタオルケットやブランケット
上記4つの必要物品について、詳しく紹介していきます。
着脱しやすい衣服
麻痺や骨折により身体の関節が拘縮していると、衣類を着脱しにくくなってしまいます。
おすすめの衣類は次の通りです。
- 前開きのシャツや肌着
- ボタンではなく、マジックテープで留める衣類
- 伸縮性のある素材の衣類
- 袖が広い衣類
要介護者の身体を痛めてしまわないように、着脱しやすい衣類を選びましょう。
下着・靴下
必要に応じて、下着や靴下も用意します。
ただし、素材やサイズに注意が必要です。
ごわごわとした素材の下着は着心地が悪く、肌トラブルにつながるおそれがあります。
また、履き口がきつい靴下は、血行が滞って下肢の浮腫を起こすかもしれません。
肌触りの良い素材や、ゆったりとしたサイズを選びましょう。
塗り薬・貼り薬
医師から塗り薬や貼り薬を処方されている場合、着脱介助の際に準備しておきましょう。
衣類を脱ぐタイミングで使用すれば、スムーズに処置できます。
体を隠せる大きさのタオルケットやブランケット
タオルケットやブランケットは、保温や羞恥心への配慮に役立ちます。
介護者に裸を見られたくないときや、寒さを感じたときに身体にかけられるので、とても便利です。
あらかじめ準備しておき、必要に応じて使用しましょう。
着脱介助する際の注意点
着脱介助を安全に行うためには、いくつか注意したいポイントがあります。
着脱介助する際の注意点は次の通りです。
- できる部分は自身で着脱してもらう
- 体が冷えないように室内を温度調整する
- 着脱時に皮膚の状態をチェックする
- 可動域を確認して無理に着脱しない
上記4つの注意点について、詳しく解説していきます。
できる部分は自身で着脱してもらう
「自分でやってもらうと時間がかかってしまう」と、要介護者主導で着脱介助するのはおすすめできません。
着脱介助の動作は、介護者にとって大切な機能訓練の一環です。
残存機能ができるだけ衰えることがないように、できる部分は自身で行ってもらい、必要時サポートしましょう。
体が冷えないように室内を温度調整する
着脱介助では、薄着になったり、肌がむきだしになったりする時間が長いので、身体が冷えやすいものです。
事前に室温を調整し、要介護者に冷感を与えないように配慮しましょう。
着脱時に皮膚の状態をチェックする
着脱介助は皮膚の状態をチェックし、早期発見・早期治療に対応できる絶好の機会です。
高齢の要介護者は皮膚が弱く、些細なダメージで肌トラブルを起こしてしまいます。
特に、自分で自由に身体を動かしにくい場合、背中やお尻に褥瘡ができやすいです。
日頃から皮膚の状態を観察し、必要に応じて、皮膚科の受診も検討してください。
可動域を確認して無理に着脱しない
急かすように無理に着脱介助すると、要介護者の関節を痛めてしまう可能性があります。
特に、麻痺側の関節は、下側からしっかりと支えて安定させてください。
麻痺側の関節を強い力で引っ張ると、脱臼を起こしやすいので注意が必要です。
関節の拘縮や麻痺のある要介護者の可動域に配慮して、着脱介助しましょう。
着脱介助に関するよくある質問
着脱介助への苦手意識がある方や、これまでに着脱介助をしたことがない方は、不安を感じがちです。
不安を解消することで、スムーズに着脱介助できます。
着脱介助に関して、よくある質問は次の通りです。
- 着脱介助ではどんな声かけをすればいい?
- 着脱介助で皮膚状態を確認する際のポイントは?
- 片麻痺の人に着脱介助する場合の注意点は?
上記3つの質問について、詳しくお答えしていきます。
着脱介助ではどんな声かけをすればいい?
着脱介助では、1つ1つの動作ごとに声を掛けましょう。
介助中の声かけの例は次の通りです。
- 「これから着替えをしましょう」
- 「上着の前を開けますね」
- 「袖に腕を通しましょう」
また、介助の前・中・後に、心身の不調の有無や、寒さを感じていないか確認することも大切です。
- 「ご気分は悪くないですか?」
- 「寒くないですか?」
- 「体調にお変わりはありませんか?」
着脱介助は、要介護者とコミュニケーションをとれる貴重な時間です。
要介護者がリラックスして着脱介助を受けられるように、声かけだけでなく、笑顔も心がけましょう。
着脱介助で皮膚状態を確認する際のポイントは?
着脱介助では、以下のポイントを押さえて全身の皮膚状態を確認しましょう。
- 手や足、顔は乾燥していないか
- 手の甲や腕、足など全身に内出血はないか
- 皮膚が剥がれていないか
- お尻や背中に褥瘡や皮膚の発赤はないか
- 皮膚に痛みや痒み、発疹などはないか
- 貼り薬を使用している箇所にただれや発赤、痒みはないか
また、皮膚トラブルを防ぐためには、日頃のセルフケアも大切です。
衣類のシワをしっかり伸ばして肌を保湿し、必要時医師から処方されている塗り薬を使用しましょう。
片麻痺の人に着脱介助する場合の注意点は?
誤った方法で片麻痺の方の着脱介助で行うと、怪我につながり、介護者の不信感を招きます。
片麻痺の方の着脱介助で注意したいポイントは、次の通りです。
- 介護者は麻痺側(患側)に立つ
- 衣類の着脱は着患脱健を心掛ける
- 無理に引っ張らず、下側から関節を支える
適切な手順での着脱介助は、要介護者だけでなく、介護者にとっても負担が少なく、スムーズに行いやすいです。
要介護者が安心して着脱介助を受けられるように、適切な手順を把握しておきましょう。
着脱介助は相手に寄り添いながら行おう
着脱介助は要介護者の清潔を保ち、リフレッシュできる大切な時間です。
介護者は動作ごとに声かけをし、コミュニケーションを図りましょう。
全身の皮膚状態を観察し、必要に応じて塗り薬の使用や皮膚科受診を検討することも大切なポイントです。
また、関節の拘縮や片麻痺のある方の着脱介助は、誤った手順で行うと要介護者の怪我や不信感につながるおそれがあります。
着脱介助は要介護者の心身に寄り添い、適切な手順で行いましょう。