高齢者の病気・症状
うつ病は、誰もが発症する可能性のある病気です。
高齢者のうつ病「老人性うつ」は、認知症の初期症状と似ている部分があるため、いつの間にか症状が悪化してしまうことがあります。
この記事では、老人性うつの症状、認知症との違い、原因や予防・対処法についてご紹介します。
「老人性うつ」とは
まず、老人性うつとはどんな病気なのか見ていきましょう。
「老人性うつ」の概要
「老人性うつ」とは正式な病名はなく、65歳以上の高齢者がかかるうつ病のことを指します。
以下のようなうつ病と同じ症状があり、日常生活に支障をきたします。
- 無気力・無関心でなんとなく元気がない
- 不眠または眠りが浅い
- 食欲不振
- 怒りっぽくなる
- 事あるごとに自分を責める
これらの症状は認知症の初期症状に似ているため、認知症と誤診されてしまったり、治療が遅れ重症化しやすかったりします。
「老人性うつ」の割合
「うつ病」と聞くと、慣れない環境や過度のストレス・披露が蓄積して発症する、比較的若い人がなる病気というイメージがある方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、厚生労働省から2008年に発表された「男女年齢別総患者数」のデータによりますと、気分障害患者のうち、60歳代の女性が12万人とトップになっており、続いて11.8万人の70歳代女性、10.5万人の40代女性、10.2万人の30代女性という結果になっています。
つまり、うつ病は決して若い世代の人に多い病気ではないのです。
「老人性うつ」と認知症の違い
老人性うつは、早期に発見し適切な治療をすれば治る病気ですが、認知症の初期症状と似ているため発見が遅れることがあります。
また、老人性うつの場合、人によっては頭痛・めまい・肩こり・食欲不振・手足のしびれ・耳鳴りなどの身体的な不調が現れることもあります。
内科や外科などで検査を受けても異常が見つからず、その結果ますます発見が遅れがちになってしまうのです。
ここでは、「老人性うつと認知症との違い」についてご紹介します。
違い1.症状の「進行速度」
認知症の多くは、老化にともなって自然的に発症するもので、病状の進行は緩やかです。
しかし、老人性うつの場合は、定年退職・パートナーとの死別・子どもの独立など、何か大きなきっかけがあって発症します。
発症後の病状の進行は認知症と比べ早い傾向にあり、短期間で複数の症状が現れることがあります。
違い2.「記憶障害」の現れ方
記憶障害は認知症と老人性うつの両方にみられる症状ですが、症状の現れ方が違います。
認知症の場合、軽度の記憶障害から始まり、徐々に症状が進行していきます。認知症が進行すると、行動自体を忘れてしまうため、自身の記憶障害に不安や焦燥感を覚えることはありません。
一方、老人性うつの場合、あるとき急に数日前のことが思い出せなくなります。「思い出せない」という自覚があるため、不安や気分の落ち込みに拍車をかけてしまうのです。
違い3.「自責の念」の有無
認知症の場合は、最初は認知機能の低下に不安になることもありますが、症状が進行するにつれ無関心になる傾向があります。
一方、老人性うつの場合は、自分の認知機能の低下を自覚していることから、症状が悪化していないかどうか神経質になりがちです。そして「周囲に迷惑をかけている」という想いから悲観的になり、最悪の場合には自殺願望にも繋がるケースがあります。
違い4.「受け答え」の違い
認知症の場合、質問に対して的外れな回答をしても、基本的にはスムーズに会話できることが多いです。
しかし、老人性うつの場合は、質問の内容自体が瞬時に理解できず、受け答えに時間がかかってしまう傾向があります。熟慮するものの、最終的には答えられないということもあります。
「老人性うつ」の原因
老人性うつの原因には、「環境的要因」・「心理的要因」の大きく2種類があると考えられています。
「環境的要因」の具体例
- 長年勤めあげた仕事を定年退職して、何をすればいいか分からなくなった
- 子どもが独立し、生活リズムが大きく変化した
- 引っ越しで親しい人達と離れるなど、環境が大きく変化した
- 夢中になれる趣味がなく、生活に張り合いがない
「心理的要因」の具体例
- 長年連れ添ったパートナーが亡くなった
- かわいがっていたペットが亡くなった
- 病気になった・後遺症に苦しんでいる
- 人間関係がうまくいかなくなった
年齢を重ねると、体力や気力・記憶力が低下しやすくなったり、病気にもかかりやすくなったりし、落ち込んでしまうことがあります。
また、高齢になると周囲の人が無くなることも増え、子どもも独立し、大きな喪失感を一人で抱え込んでしまうケースもあります。
これらの「環境的要因」と「心理的要因」の両方が原因になって、「老人性うつ」を発症する場合があるのです。
「なんだか最近様子がおかしいな」と違和感を持つことがあれば、言動を注意深く観察するようにしましょう。
「老人性うつ」の予防法・対処法
それでは、「老人性うつ」の予防法や、診断された場合の対処法について見ていきましょう。
「老人性うつ」の3つの予防法
予防法1.新しいことにチャレンジする
「老人性うつ」の予防には、新しいことにチャレンジする気持ちを持ち続けたり、積極的に地域の会合に参加し会話したりするなど、前向きな気持ちを持つことが重要です。
特に、定年退職後にはやることがなくなり無気力になってしまうケースもあるため、新しい仕事を始めたり、興味のあった趣味や習い事を始めたりするのも良いでしょう。
予防法2.バランスの取れた食事を取る
脳の働きを良くするためには、バランスの良い食事をすることが重要です。肉や魚、野菜、豆、海藻といったさまざまな食材を食べるよう、心がけましょう。
一人暮らしで自炊することが難しい場合には、栄養に気を配った宅配サービスを利用するのも一つの方法です。
予防法3.適度な運動を継続する
健康的な生活を維持するためには、適度に体を動かすことが重要です。
特に、うつ病は精神を安定させる働きがある神経伝達物質「セロトニン」との関係が深いといわれています。屋外で太陽光を浴び適度な運動をすると、セロトニンの分泌を促すことができます。
「老人性うつ」の3つの治療法
「老人性うつ」と診断された場合には、主に「環境の調整」「薬物療法」「精神療法」の3つの治療法があります。
治療法1.環境の調整
前述のように、老人性うつの原因の一つに、「環境的要因」というものがあります。したがって、本人が活力を取り戻せるような環境を整えたり、ストレスのない環境に引っ越したりすることは効果的です。
社会から疎外されていると感じる事によって、「老人性うつ」を発症する人も多いため、適度に家事をお願いしたり、無理のない範囲で本人が活躍できる場を用意したりしてあげましょう。
また、無気力、疲れやすいという症状がある場合でも、休ませすぎてしまうと認知症を発症したり、筋力が低下して寝たきりになってしまったりする可能性があります。
医師の適切なアドバイスを受けながら、適度に外に連れ出し心身共に適度な刺激を与えるような機会を設けると良いでしょう。
治療法2.薬物療法
「老人性うつ」は、一般的なうつ病と同様に、抗うつ剤などを使用すると効果的です。
ただ、体質によっては「血圧を上げる」「尿が出にくくなる」などの副作用が出るため、一人ひとりの健康状態に応じて慎重に使用する必要があります。
特に、高齢者の場合には他の薬を服用している場合も多く、薬の相性などを考慮する必要があるため、必ず医師に判断してもらいましょう。
治療法3. 精神療法
「精神療法」とは、医師とコミュニケーションを図りながら、症状の改善を図る治療です。
家族が声をかけて励ます事も時には大切ですが、「頑張れ!」「絶対大丈夫!」などの安易な励ましはかえってプレッシャーとなり、悪化させることもあるため避けた方が良いでしょう。本人のことを「否定しない」、「過度に励まさない」ことに注意しながら、家族や周囲の人が日頃から接するようにするなど、接し方にはコツがあります。
具体的な声かけについては、病状や期間、患者本人の性格によっても異なるため、必ず専門医に相談してください。
うつ病は回復するのに時間がかかる病気です。「老人性うつ」が回復してきたら、人や社会との接点を持たせながら、少しずつ精神的な刺激を与えていくようにしましょう。
家族での介護が難しい場合は?
「老人性うつ」の症状が進行していくと自責の念を抱いてしまいがちになり、最悪の場合は自殺願望にもつながるケースがあります。
家族で注意深く見守る必要がありますが、一日中ずっと見守るのは物理的にも精神的にも難しいものです。家族が介護で疲れ切ってしまっては、十分な介護ができません。家族だけで対応できない場合は、デイサービスなどの利用を検討しましょう。
病院で医師や看護師と世間話をするだけでも、病状の改善につながることがあります。
有料老人ホームなどの介護施設では、病院と併設されている所もあるので、老人性うつの人でも入居できる可能性が高いです。そのような老人ホームでは認知症の対応に慣れたスタッフが常勤しているので、老人性うつ病患者の対応にも慣れていると言えるでしょう。
しかし、老人ホームはあくまでも介護施設であり医療施設ではないので、「老人性うつ」が原因で食事が取れない場合などには、入居を断られるケースがあります。慎重に施設選びをしましょう。
まとめ
「老人性うつ」について詳しくご紹介しました。
認知症とは違い、「老人性うつ」は早期に専門家による適切な治療を行えば、改善が期待できる病気です。
いつもと様子が違うと思うことがあれば、出来るだけ早く医師の診察を受けるようにしましょう。