高齢者の病気・症状
頭部のケガや病気が原因で発症する、高次脳機能障害は、認知症やせん妄・うつ病と似ている症状もありますが、全く異なるものです。
この記事では、高次脳機能障害の特徴や、社会復帰のための制度・リハビリテーションについてご説明します。
高次脳機能障害とは?
「高次脳機能障害」とは、事故やけが・病気などで脳が損傷した後に起こる後遺症のことを指します。主な原因として、交通事故・転落などの脳の外傷事故のほか、脳血管障害、脳炎、低酸素脳症などの病気が挙げられます。
高次脳機能障害が生じると、注意力や記憶力、感情のコントロール力など「生活を円滑に送る能力」に問題が生じ、日常生活や社会生活が困難になります。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の症状は一人ひとり異なります。
代表的なものをご紹介しましょう。
記憶障害
- 新しいことをなかなか覚えられない
- 通い慣れているはずの道順がわからなくなる
記憶障害は、「原因となる事柄が生じた前後の記憶が一時的にない」といった軽度のものから、「ほとんど全ての記憶をなくしてしまう」という重度のものまでさまざまです。
注意障害
- 集中力が続かず、気が散って作業に集中できない
- ぼんやりとして表情が乏しくなる
注意障害とは、物事に集中できず、他の刺激に注意を奪われやすい状態が続くことです。
長時間注意をし続けることが難しいため、時間の経過とともに課題の成績が低下するのが特徴です。
遂行機能障害
- 物事の優先順位が分からず、計画的に行動できない
- 約束の時間に間に合うように行動できない
ある目的に対して、行動計画を立てることが困難になる障害です。
行動力はあるため、段階的に適格な指示を受ければ活動できるのが特徴です。
社会的行動障害
- 自己中心的・依存的になり、暴力や性加害などの反社会的行為を起こす
- 意欲が低下し、ずっと寝たままの状態でいる
- 片側の空間にある物や人を見落としてしまう
- 物や人にぶつかることが増える
- 話を理解したり、自分から話したりするのが難しい
- 文字が読めない、書けない
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社会的行動障害とは、感情のコントロールが難しくなり、興奮しやすくなったり暴力をふるったりする障害です。
逆に、自発的な活動が減少し、運動障害がないのに一日中ベッドから離れられないなど、無気力になるケースもあります。
半側空間無視
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半側無視行動とは、脳が損傷した反対側の空間において物事を見落としてしまうことです。
重度の場合には、注意を促しても損傷した脳の反対側の空間を見ることができません。
失語症
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失語症とは、スムーズに話せない・相手の話を理解できないといった、言語に関する障害です。
認知症との違いについて
認知症と高次脳機能障害は、共に脳への損傷を原因としており、症状としては似ている部分が多くありますが、異なるものです。
主な違いは下記の2点です。
高次脳機能障害は、脳を損傷した時期が明確
認知症は、発症時期をはっきりと特定できません。
しかし、高次脳機能障害は交通事故による脳への受傷や、脳卒中など、発症した時期が明確です。
高次脳機能障害の診断は、頭部CTや頭部MRIなどの検査を行い判定します。
高次脳機能障害は、進行性ではない
認知症は一度発症すると、少しずつ進行していきます。
一方、高次脳機能障害は、進行性の病気ではありません。
高次脳機能障害は、的確な診断・対応をすれば、ある程度の症状の改善が期待できます。
せん妄との違い
せん妄と高次脳機能障害の違いは、「時間の経過とともに元に戻るかどうか」です。
せん妄は、意識障害や注意力低下などの異常な精神状態のことを指し、時間が経つと元に戻ることが多いのが特徴です。
一般的に日中よりも夜間にせん妄の症状が悪化することが多く、徘徊の多くは夜間に見られます。
うつ病との違い
前頭葉損傷による高次脳機能障害では、表情が乏しくなったり、意欲の低下がみられたりし、うつ病の症状とも重なるものがあります。
高次脳機能障害とうつ病との大きな違いは、その「原因」です。
一般的なうつ病は内因性のもので、その原因はまだ明確には解明されていません。
一方、高次脳機能障害は、物理的な脳の損傷によるものです。
高次脳機能障害の治療・リハビリテーションについて
前述のように、高次脳機能障害は的確な治療・リハビリテーションをすることで、ある程度改善することが期待できます。
まずは、高次脳機能障害の原因となっている脳卒中やケガなどの治療を行います。
そして病状が安定してきたら、日常生活や社会生活への適応力を高めていくために、以下のリハビリテーションに移ります。
医学的リハビリテーションプログラム
最初に病院やクリニックにて数々の検査を行い、障害の特徴や重症度を診断します。
その後、一人ひとりの状態に合わせた「医学的リハビリテーションプログラム」を最大6ヶ月実施します。
必要に応じてリハビリテーション病院・身体障害者更生施設・地域利用施設などと連携し、「生活訓練プログラム」や「職能訓練プログラム」に移行します。
生活訓練プログラム
生活訓練プログラムの目的は、「日常生活に必要な力を回復させること」です。
たとえば、規則正しい生活リズムの確立、買い物、金銭管理、洗濯、掃除、料理、公共交通機関の利用などをスムーズにできるようなリハビリテーションを行います。
職能訓練プログラム
職能訓練プログラムの目的は、「個々の処理能力をもとに、課題や可能な業務を明らかにすること」です。
作業実習や技能講習、グループワーク、職場実習などを通して、適切な仕事の選択や職場の調整をします。
社会復帰のための支援サービス
リハビリテーションによって高次脳機能障害の症状に改善がみられると、社会復帰への準備を始めます。
社会復帰に向けて、さまざまな支援サービスがあります。
障害福祉サービス
1割の自己負担で介護サービスなどが利用できる「自立支援給付」や、市町村が本人や家族の相談や交流の場を提供してくれる「地域生活支援事業」があります。
介護保険サービス
1〜3割の自己負担で、デイサービスやデイケア、訪問リハビリテーション、短期入所、グループホームなどの利用ができるサービスです。
40歳以上の人で、介護や支援が必要とされる場合に利用できます。
障害者手帳
症状によって身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳などの障害者手帳を持つことができます。
障害者手帳を取得すると、税金の減額や免除、各種施設の無料での利用、障害者枠での雇用など、さまざまなサービスが受けられます。
就労準備の支援サービス
就労に必要なさまざまな訓練・実習が受けられます。
心身障害者福祉センター、市町村障害者就労支援センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワークなどへ相談に行きましょう。
ジョブコーチ支援制度
障害を持つ方が職場に適応できるように、職場に訪問でき、フォローしてくれる制度です。
トライアル雇用
原則3ヵ月の試用期間を経て、本人と企業の合意があれば本採用に至る制度です。
実際に働いてみることで、その企業に適しているかどうかを見極めることができます。
まとめ
高次脳機能障害は、他の脳の病気と間違われることが多い障害です。適格なリハビリテーションや治療を受けることで回復が期待できます。
社会復帰に向けて様々なサポートを受けられることを、知識として持っておきましょう。