高齢者の病気・症状
ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)とは2007年に日本整形外科学会によって新しく提唱された概念で、「運動器の障害のため移動機能が低下した状態」を表します。
ロコモティブシンドロームが進行していくと認知症を発症するリスクが高まり、最終的には寝たきり状態になってしまう可能性もあります。
この記事では、ロコモティブシンドロームの原因や予防のポイントなどを解説いたします。
要介護の原因になるロコモティブシンドローム
高齢化社会が進み平均寿命が延びる一方、運動器に障害を患い支援や介護が必要となる方も増加しています。
骨、筋肉、関節、神経などの運動器に障害が生じ、歩行するための機能が低下した状態を「ロコモティブシンドローム」とよびます。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によりますと、平成25年の1年間で要介護状態となった主な原因は、「関節疾患」や「骨折・転倒」という結果でした。
また、「高齢による衰弱」も運動器の障害とした場合、合計すると全体の36.1%にも上りました。
つまり、介護の原因に運動器の障害が大きく関与しているのです。
ロコモティブシンドロームが発生しやすい年齢は?
ロコモティブシンドロームが発生するのは「高齢者になってから」というイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。
人間の筋肉や骨密度は30歳前後でピークを迎え、その後は徐々に低下していきます。
50歳を過ぎると、加齢だけではなく怪我や病気などのリスクが高まるのに伴い、ロコモティブシンドロームに陥るリスクも一気に高まります。
特に女性は、閉経する50歳前後から骨密度が急激に減少することが多いため、転倒・骨折などに注意しなければなりません。
運動器は自分で動かすことができ、骨と筋肉は自分の意思で鍛えることができます。
40代以降の方はもちろん、40歳未満でも早めに体力作りをしておくことで、ロコモティブシンドロームの予防へとつながるでしょう。
ロコモティブシンドロームになりやすい人は?
女性や肥満の人はロコモティブシンドロームになりやすいといわれています。
公益財団法人骨粗鬆症財団によれば、女性の骨粗鬆症(骨粗しょう)患者数は男性の三倍でした。(公益財団法人骨粗鬆症財団『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』)
女性は靭帯や膝軟骨が一般的に男性よりも弱いために膝関節を損傷しやすく、閉経前後の時期に骨密度が大きく低下するといわれています。
また、肥満の人は常に足腰に負担がかかりやすく、膝や腰の痛みで体を動かせない状態が続くと、さらに体重が増加し、結果的に痛みが悪化するという悪循環に陥るケースが多いといわれています。
そのため、普段から適度な運動をしている人は、ロコモティブシンドロームになりにくいと考えられます。
ロコモティブシンドロームの原因
ロコモティブシンドロームの大きな原因として考えられているのが、「加齢による運動器の機能不全」と、「膝前十字靭帯損傷、膝半月板損傷運動器による疾患」です。
ここからは、主な原因である「加齢による運動器の機能不全」について詳しくご紹介していきます。
筋力の低下
加齢による筋力の低下は主に下半身に生じやすく、時には転倒を招くこともあります。
年齢を問わず、誰でもロコモティブシンドロームになるリスクがあることを覚えておきましょう。
骨や関節、筋肉の病気
運動器に障害が出てしまう主な病気に、膝の関節にある軟骨がすり減り膝の骨に変形や関節炎が起こる「変形性膝関節症」、骨密度が低下して骨がもろくなってしまう「骨粗鬆症」、神経が圧迫されて脚にしびれや痛みが起こる「脊椎管狭窄症」などがあります。
これらの病気になってしまった場合は、まずは治療に専念しましょう。
バランス感覚の低下
視覚と三半規管、そして筋力という三つの要素が連携してバランス感覚は保たれています。
加齢とともに老眼や白内障などが生じて視力が低下し、三半規管の機能も衰えていきます。
そして、筋力が低下すると脚の力も弱まり、バランスを取ることが難しくなってしまうのです。
ロコモティブシンドロームのチェックポイント
それでは、ロコモティブシンドロームの兆候には一体どのようなものがあるのでしょうか。
主な諸症状は以下の通りです。
- 片脚立ちで靴下が履けない
- 家の中でつまずいたりすべったりする
- 階段を上がるのに手すりが必要である
- 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
- 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1Lの牛乳パック二個程度)
- 15分くらい続けて歩くことができない
- 横断歩道を青信号で渡り切れない
これらのチェック項目に一つでも当てはまったら注意が必要です。
早めにトレーニングを始めて運動器の衰えを防ぎましょう。
ロコモティブシンドロームの進行について
ロコモティブシンドロームにより運動機能が低下すると骨粗鬆症になりやすくなり、脚の付け根や背骨など体を支える重要な骨が折れやすくなります。
そして骨折のため寝たきりの状態が長期間にわたった場合、認知症を発症するリスクが高まり、さらに転倒のリスクが高まるといわれています。
このように、ロコモティブシンドロームが進行すると徐々に状態が悪化してしまうのです。
一般的に以下のような段階を経て進行していきます。
運動不足による筋力の低下
筋⼒が低下すると体を動かす意欲も徐々に失われ、さらに筋⼒が低下します。
その結果、病気や事故などによる⾻折のリスクも⾼まります。
関節の痛み
筋⼒が弱ってしまうと体のバランスが悪くなります。体の節々に負担がかかるため、関節に痛みが出てくるようになります。
歩幅が小さくなる
運動不足の状態が続くと、関節の痛みもあり可動域が次第に狭まっていきます。その結果、歩幅が⼩さくなっていくようです。
家の中で移動が困難になる
徐々に歩⾏困難な状態へと移⾏していきます。
家の中での移動も億劫になり、座っている時間が増え、意欲が減退して床に伏せている時間が長くなりがちです。
寝たきり状態になる
家の中で横になる状態が続けば、ますます体の衰えが進みます。
そして、「寝たきり」状態になってしまいます。
ロコモティブシンドロームの最初のきっかけは「運動不足」です。
無理のない運動を続け、肥満を防いで筋力を維持しながら生活することが、寝たきりの予防につながります。
ロコモティブシンドロームの予防のポイント
ロコモティブシンドロームを予防するためには、「適切な運動を習慣的に行うこと」、「栄養バランスの良い食事をとること」が重要になります。
無理のない運動習慣
厚生労働省の「アクティブガイド2013」によりますと、
- 歩幅を広くして、速歩きする
- エレベーターやエスカレーターではなく、階段を使う
- いつもより少し遠くのお店まで歩いて買い物に行く
- 近所の公園や運動施設を活用する
などが挙げられています。
無理のない範囲で、毎日継続するのが重要なポイントです。
もし、持病などがある場合には、自分に適した運動は何なのか医師に相談してみると良いでしょう。
栄養バランスのとれた食事
人の体は食べたものからできています。筋肉や骨をつくる栄養素を十分に摂取することは、重要な予防法です。
骨のもととなるカルシウムやたんぱく質、そしてビタミンDとビタミンKなどの栄養素などを意識的に摂取しましょう。
また、筋肉を保っていくには、良質なたんぱく質や炭水化物、脂質も必要です。
さまざまな食品をバランスよく組み合わせ、日々の食生活できちんと栄養を摂取しましょう。
まとめ
高齢になっても自分で歩いて生活するためには、ロコモティブシンドロームを予防することが重要です。
ロコモティブシンドロームになると、筋力の低下から意欲も低下してしまい、寝たきりになってしまう可能性もあります。
ご紹介したロコモティブシンドロームの症状に心当たりがある場合、すぐに生活習慣や食生活を見直しましょう。
ただ、持病がある場合など、急な運動は逆効果です。
医師に相談し、適切な改善方法を指導してもらった上で、無理のない運動を続けましょう。