高齢者の病気・症状
生きている限り、必ずお別れのときがきます。
最期はできるだけ安らかに過ごしたいというのが、本人・家族の想いではないでしょうか。
この記事では、その思いの実現をお手伝いしてくれる看取りとターミナルケアの違いや、自宅・施設・病院で最期の時を過ごす場合のメリット・デメリットなどについてご紹介します。
看取りとは
「看取り」の意味をご存知でしょうか。
看取りとは、平成26年に「公益社団法人全国老人福祉施設協議会」が発表した「看取り介護指針・説明支援ツール」によると、「近い将来、死が避けられないと判断された人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」です。
その人らしい最期を迎えるため、医師の指示に従って自宅や施設で静かに死を迎えるのが「看取り」という考え方です。
高齢化社会を迎えた近年、この考え方は広がりつつあります。
今まで、人は最期が近づくと医療機関に入院し、延命機器を試みることが一般的でした。
一方、看取り介護では、医師の指示に従って痛みを緩和しながら、息を引き取るまで支援を行います。
看取り介護の最大の特徴は、「可能な限り普段の生活を変えないように、食事や排せつなど日常生活の介助を行う」という事です。
そのために重要なのは、本人の意思や家族の希望に寄り添う事。本人の意思疎通ができるうちに、希望を聞いておくのが望ましいです。
ターミナルケアとは
ターミナルケアは、「終末期医療」と訳されます。
先ほどご紹介した看取り介護との大きな違いは、ターミナルケアでは「点滴や酸素吸入などの医療ケアを行う」という点です。
ターミナルケアを望む場合、予め医療方針について医師とよく話し合っておくことが重要です。病院では、ガンやエイズなどでこれ以上効果的な治療がないと判断されるとターミナルケアが始まります。
認知症や老衰では、ターミナルケアの開始時期の判断がとても難しく、一般的に「寝たきりになって食べられなくなってくる」時がターミナルケア開始時期とされています。
それでは、ターミナルケアを在宅で行う場合と、老人ホームなどの介護施設で行う場合の違いをご説明します。
在宅でのターミナルケア
在宅でターミナルケアを行う最大のメリットは、残された時間を家族と一緒に過ごせることです。
自宅ですごすことでリラックスでき、費用も病院ほど掛からず、経済的負担も最小限で済みます。
一方デメリットとしては、常に介護をする人が必要だということです。
仕事を休んだり辞めたりしなければいけないケースも。介護は24時間体制で必要なため、体力的にも精神的にも負担がかかってしまいます。また、患者が急変した場合、すぐに医師に診てもらえません。
在宅でのターミナルケアをするためには、介護の負担を軽減して患者本人とゆっくりと過ごせるよう、ソーシャルワーカーや介護サービスなどの公的機関を利用して、介護生活を多方面からサポートしてもらいましょう。
介護施設でのターミナルケア
介護施設でターミナルケアを行うメリットは、介護のプロが24時間褥瘡ケアや排泄など全てのケアをしてくれるということです。
家族も24時間介護に追われることなく、体力的にも精神的にも余裕を持って患者と向き合うことに集中できます。
また、介護士や他の利用者との接点もあり、孤立してしまうことが少ないでしょう。
一方、デメリットとしては面会する時間が限られている点、自宅ほどリラックスできないという点です。
また、ターミナルケアがいつまで続くのかは誰にもわからないため、経済的な負担が大きくなってしまう可能性もあります。
看取りができる施設とできない施設の違いは?
現在では、ほとんどの施設で看取り介護ができる状態です。
看取りができる施設とできない施設の違いは以下の通りです。
- 常勤看護師がおり、施設又は病院等の看護職員と連携による24時間の連絡体制を確保していること。
入居者はいつ入居者が急変してもおかしくない状況です。夜中であってもすぐ医療機関に連絡できるよう、連携体制を整えておく必要があります。
- 看取り指針を本人や家族に説明し、入所前に同意を得ていること。
看取り介護には、本人や家族の同意が必要です。施設での看取り介護について事前に説明し、病院との違いや施設で可能な医療行為について話し合いをして同意を得ておきます。
- 看取りに関する職員研修を実施していること。
看取り介護を行うためには、生きることと死ぬことについてという根本的なことから、本人や家族とのコミュニケーションの取り方、身体機能低下プロセスへの対応、夜間や緊急時の対応など、看取りに関する知識が必要です。
- 医師、看護師、介護職員等が協議をし、これまでの看取り実績を踏まえ、適宜、看取りに関する指針の見直しを行うこと。
看取りに向け、医師や看護職員、ケアマネジャー、介護職員などの多職種にわたる関係者が協議し、本人らしく最期の時間を穏やかに過ごせるよう、できることを話し合います。
看取り介護計画は、週に1回程度の見直しすることが望ましいです。
- 看取りを行う際、家族のために個室または静養室が利用できるよう配慮すること。
看取り介護を行うときには、家族の心理的負担が大きくなります。
周囲に気兼ねなく付き添えるよう、個室または静養室を用意することが必要です。
室温や採光、換気など環境にも気を配り、できるだけストレスなく過ごせるような配慮が重要になります。
上記のように、看取りを実施できる施設では、患者本人も家族も最期の時に向けて、事前に十分準備をして心穏やかに過ごせるような環境を整備することが求められます。
それほど難しい条件ではないのですが、それでも看取りが実施できていない場合は、「医師との連携がうまく取れない」「スタッフの教育が徹底できていない」という理由も考えられます。
そのような施設で入居者の体調が悪化した場合には、看護師が嘱託医に指示を仰ぎ、病院に緊急搬送することが多いのが現状です。
ターミナルケアが可能な施設とは?
ターミナルケアを受ける場所としては自宅以外に、老人ホームなどの介護施設や病院などが想定されます。それでは、それぞれの施設での特徴をご紹介します。
介護施設でターミナルケアを行う場合
特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などでは、看取りを前提とした入居をすることも可能で、「看取り介護加算」が付与されます。
「看取り介護加算」が加算されるとサービス料が追加され、施設の収入になります。
具体的には、亡くなる4~30日以内は1日につき144点、死亡前日・死亡前々日は780点となり、死亡日は1,580点が加算されます。
先ほどご紹介したように、看取りを前提とした入居ができるかどうか、医療施設と提携しているかどうか、医療体制と合わせて事前に確認が必要です。
病院でのターミナルケア
現時点で厚生労働省が緩和ケア病棟(ホスピス)の診療対象としているのは、「がん」と「後天性免疫不全症候群(エイズ)」患者です。
ただ、2015年11月時点で緩和ケア病床数は累計7,184病床(357施設)、緩和ケアチームは224ヵ所にとどまっています。
自宅や他の施設に入れないからといって「とりあえず入院する」というのはなかなか難しいのが現状です。
まとめ
誰にでも必ず最期は訪れます。
医療・介護サービスの選択肢がたくさんある今の時代だからこそ、意思疎通ができる元気なうちから希望を聞いておきましょう。
納得して最期の時を迎えることは本人にとっても、残された家族にとっても大切なことです。
改めて今生きていることに感謝しつつ、ゆっくりと話し合う機会を設けてみましょう。