認知症?もの忘れ?認知症の進行のしかたと症状、家族ができることとは

認知症の全知識

人は年齢を重ねると、もの覚えがわるくなったり、名前が出てきにくくなったりするものです。
これは「もの忘れ」といい、脳の老化によるもので特に原因はありません。
しかし、認知症は「もの忘れ」とは異なり、何らかの原因により神経細胞が壊れてしまい生じる症状です。

この記事では認知症ともの忘れの違いや症状から、私達家族ができることまでご紹介します。

もの忘れと認知症の違い

日本神経学会では、認知症を「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいい、それが意識障害のないときに見られる」と定義しています。
老化に伴い発生する「もの忘れ」と「認知症」による記憶障害はまったく異なります。

以下で、違いについてご説明します。

認知症は長期記憶が保たれやすいが、短期記憶が失われる

記憶には、短期記憶と長期記憶があります。
認知症の初期ではまず短期記憶が失われやすくなり、次第に長期記憶へと障害が広がります。
たとえば、先ほど話していた内容は忘れがちですが、子ども時代の出来事などの長期記憶は失われにくいです。

認知症は体験したことすべてを忘れてしまう

「もの忘れ」は昨日の食事のおかずを思い出せなくても、何かを食べたこと自体は覚えています。

しかし、認知症は体験した記憶ごと忘れてしまうことがあります。
このような状態が続くと、周囲の人とのトラブルに繋がったり、理解されずに孤立してしまったりすることも考えられます。

認知症は、一般的な知識や体で覚えたことは覚えていることが多い

短期記憶や体験の記憶は徐々に失われてしまいますが、一般知識・教養や、楽器の演奏方法や編み物の指の動きなどの「手続き記憶」は覚えていることが多いです。

認知症の初期症状と発見のきっかけ

それでは、認知症の初期症状や発見につながるきっかけをご紹介します。

もの忘れがひどくなる

  • 同じ話を何度も繰り返す
  • 約束をしたこと自体を忘れてしまう
  • ゴミの収集日を忘れる
  • 家に在庫があるのに、同じ物を何度も購入する
  • 鍵や財布など大切なものを紛失する
  • 料理の味付けが明らかに変わる

理解力・判断速度の低下

  • 買い物でお金を支払う際に計算が難しくなり、常にお札で払う
  • 周囲の会話速度やテレビ番組の内容についていけなくなる

集中力・作業能力の低下

  • 読書好きだったのに本を読まなくなる
  • テレビドラマを見なくなる
  • 趣味だった手芸や工作、料理などを途中でやめてしまう

精神的に混乱し、落ち込みやすくなる

  • 何事にもやる気がなくなり、人付き合いを避けるようになる
  • 常に怒りっぽくなる

このような症状は本人にとって非常に辛いものです。
漠然した不安や混乱、怒りを感じていることもあります。

「自分の年齢」「今日の日付」「今の季節」「今いる場所」などがわからなくなってきたら、認知症の初期症状の可能性があります。
できるだけ早く専門医の診察を受け、症状を悪化させないようなリハビリや薬などを服用しましょう。

認知症の症状には中核症状と行動・心理症状(周辺症状)がある

認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状(周辺症状)」に分けられます。

認知症の中核にあると想定されている症状が「中核症状」で、脳の病変が引き金となって生じる症状です。
そして、中核症状と、周囲の環境や性格などが影響しあって二次的に生じるとされるのが、行動・心理症状です。
行動・心理症状は、その人の置かれた環境やそれまでの暮らしとの関係が強く、認知症の方全てに生じるものではないと考えられています。

中核症状とその進行

認知症は記憶障害(もの忘れ)により気づくことが多いものの、実際は各症状が少しずつ同時期に進行していくと考えられています。
ここでは認知症の中核症状と進行についてお伝えします。

中核症状には、おもに「記憶障害」「見当識障害」「失認・失行・失語」「実行機能障害・判断力障害」があります。

記憶障害

認知症による記憶障害では、食事の内容だけでなく食事したこと自体を忘れてしまいます。
薬を飲んだかどうかも忘れてしまうため、服薬治療を受けている場合には袋に日付と時間を書くなどの工夫が必要になります。

見当識障害

日付や曜日がわからなくなることから始まり、次第に今いる場所がわからなくなります。
更に進行すると、身近な人や家族に関してもわからなくなるという症状が現れます。
ただし、その人が安心できる相手かどうかという感覚は記憶に残りやすいとされています。

失認、失行、失語

正しい手順で行動するのが難しくなる「失行」、目で見た情報を正しく認識できなくなる「失認」、言語を理解する力や表現が乏しくなる「失語」という症状があります。
いずれも身体には異常がないものの、脳神経の障害のために困難になっています。

実行機能障害、判断力障害

段取り通りに行動ができなくなったり、善悪の判断ができなくなったりする状態です。
たとえば、料理が手順通りに作れなくなったり、下着と上着のどちらを先に着ればいいのかわからなくなったりします。

これらの症状が徐々に進行していくため、認知症の人は大きな不安を感じています。
その結果、落ち着かない言動を取ったり、うつ状態になってしまったり、暴言や暴力をふるってしまうなど、行動・心理症状が発生するといわれています。

認知症の人への対応のポイント

認知症の人は、本人が不安で辛い思いを抱えていることが多いため、対応にも細心の注意が必要です。

ここでは対応のポイントを具体的にご紹介いたします。

ポイント1.「自分が必要な存在なんだ」と認識させる
認知症になると自分に自信がなくなり、自己肯定感も育まれません。
「どうせ私なんて…」とふさぎ込んでしまう可能性もあります。
そんな時には、本人が無理なく今できることをお願いしましょう。
その都度感謝の気持ちを伝えることで達成感にもつながり、信頼関係も築けます。
ポイント2.プライドを大切にする
た、本人のプライドを傷つけないために、叱ったり、指摘したり、相手を否定したりしてはいけません。
「その人らしさ」を常に大切にして介護することが重要です。
相手の意思を出来るだけ受け止め、穏やかな声で対応しましょう。
ポイント3.孤立させないようにする
認知症と診断されたからといって、社会から断絶するのではなく、孤独にならないように人と関わる時間を定期的に設けましょう。
自宅で介護している場合は意識的に声かけをしたり、デイケアなどに参加する場合は参加者同士で交流の場がある施設を選びましょう。孤独になると不安感が増し、不安感は認知症を悪化させるとされています。

介護疲れしないためのポイント

認知症の人を介護するのは、家族といえども身心に負担がかかり、疲労も蓄積します。

大切なのは、一人で抱え込まずに周囲を頼ることです。
家族や親戚、地域の保健センター、高齢者相談センター(地域包括支援センター)、在宅介護支援センターなど、身近な人や地域の専門家に相談してみましょう。ホームヘルパーによる訪問介護を利用すれば、一時的に休めます。
また介護教室や家族の会に参加することで共通の悩みを抱えている家族とつながることができ、孤独感も和らぐでしょう。

まとめ

認知症の進行の速さや症状は人によって違います。

しかし、本人がとても不安で辛い思いをしているのは共通しています。
家族ができることは、認知症に対して正しい知識を持ち、本人と良い関係を作っていくことです。

自分だけで抱え込んではいけません。
専門家の相談窓口や介護サービスなどを上手に利用してきちんと息抜きをしながら、無理のない介護をするように心がけましょう。