同じ行動を繰り返すのは認知症?前頭側頭型認知症について徹底解説!

認知症の全知識

高齢化が進む昨今、「認知症」への関心は非常に高まっています。

認知症と一口にいっても、その種類はさまざまです。なかでも「前頭側頭型認知症」は、言葉に関係する脳部位に影響する認知症です。
ほかの認知症と比較しても気づきにくいため、気づいた頃には重症化してしまっている場合もあるため、注意が必要です。

この記事では、前頭側頭型認知症の症状から対処法まで詳しく解説します。

前頭側頭型認知症とは

前頭側頭型認知症とは、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮して血流が悪くなり、その部分の機能が低下することにより発症するといわれる認知症です。「前頭葉」や「側頭葉」は、言葉を発することや理解することに関係するため、前頭側頭型認知症を発症すると感情のコントロールや理性的な行動、状況把握力が少しずつ失われていきます。

40~60代と比較的若い時期から発症することが多い若年性認知症(65歳未満の方が発症する認知症)の一種であり、患者数に男女差はありません。

発症すると緩やかに症状が進行していき、10年前後で寝たきりになる場合が多いです。

記憶障害から症状が現れるアルツハイマー型認知症とは異なり、前頭側頭型認知症は人格が変わってしまったり、非常識な行動をとったりするなどの症状が初期から見られるのが特徴で、ピック病ともよばれています。

前頭葉と側頭葉とは?

では、前頭葉・側頭葉とはそれぞれどのようなものなのでしょうか。

脳は部位別に前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉というように分類され、それぞれ異なる役割を果たしています。
このうち、前頭葉は社会性や人格、判断、言葉などをコントロールしています。一方、側頭葉は、言葉の理解、聴覚、味覚のほか、記憶や感情をつかさどる部位です。

どちらも生きる上で重要な働きを担っているため、前頭側頭型認知症によりこの機能が低下してしまうと、日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。

前頭側頭型認知症の症状

次に、前頭側頭型認知症の主な症状をご紹介します。

社会性の欠如

前頭側頭型認知症では、物忘れの症状はあまり見られませんが、急に万引きや痴漢行為などの反社会的な行動をすることが増えるため、精神疾患と間違われて診察されてしまうことも少なくありません。

また、道徳観が低下しているため、上に挙げた反社会的行動をとった際にも、本人に罪悪感がないことも特徴です。

抑制が効かなくなる

自分の欲求が抑えられず、本能のまま行動するようになります。
具体的には、礼儀やマナーに欠ける行動をとったり、暴力をふるう、一方的に話し続けたりするなどの行動をとる可能性があります。

また、突然ニコニコしたり不機嫌になったりと気性が落ち着かなくなるケースもあります。

同じ行動を繰り返す(常同行動)

毎日同じコースを散歩したり、机の上を叩き出したり、足をバタバタさせたり、机の上にあるものを食べ続けたりと、同じ行動を繰り返す「常同行動」が見られるようになります。

家から出て同じ道をぐるぐる回るようなこともありますが、徘徊とは異なり迷子にはならずに家に戻ってきます。

そのほかにも、決まった時間に毎日同じことをする「時刻表的な生活」を好むという症状が出ることもあります。

感覚の麻痺(鈍磨)

感情が鈍くなり、他者への思いやりを持ったり、感情移入したりすることができなくなります。

そのため、相手に対して急に無関心になったり、体調を崩している家族に家事を指示したりするなど、周りへの気遣いができなくなるケースがあります。

食習慣の変化

味の濃いものや甘いものを過剰に好んだり、同じメニューばかり食べたがったりするなど、嗜好の変化がみられます。

食欲が旺盛になることもあり、深夜に冷蔵庫の中から食べ物をあさったり、盗み食いをしたりといったさまざまな食行動の異常がみられます。

自発性の低下

自分や周囲に対して関心がなくなり、自分から何かに取り組む自発性が低下します。

結果として、聞こえた言葉をオウム返しする、いつも同じ言葉を言い続けるというように、自発的な言葉が出にくくなります。

また、日常生活では、家事をしなくなる、一日中ぼんやりしている、引きこもるなどの症状が出てきます。

前頭側頭型認知症の対処法

それでは前頭側頭型認知症を発症した場合、周りの人はどのように対処すれば良いでしょうか。

極力笑顔で接する

前頭側頭型認知症を発症すると、常識では考えられないような行動を取ることも少なくありません。そのため、介護者である家族は強い不安やストレスを感じるでしょう。

ただ、そのストレスをそのまま患者本人にぶつけてしまうと激昂して暴力を振るう可能性もあります。そのため、極力、笑顔で接することが大切です。

患者本人がイライラしている場合には原因を探り、その原因を解消するように対応しましょう。たとえば、単に場所を変えるだけでも効果的なことがあります。

また、介護する際には患者につられて感情的にならないことも重要です。本人には極力笑顔で接しつつも、不安やストレスを感じた際には専門機関や頼れる周りの人間に相談しましょう。

できる限り本人の意思に任せて自由にさせる

前頭側頭型認知症の特徴的な行動を強引に止めてしまった場合にも、激昂して暴力を振るったり、反社会的な行動を起こしたりする可能性があります。そのため、安全面に留意した上で、できる限り本人の意思に任せて自由にさせてあげましょう。

デイサービスなどを時刻表的行動の中にうまく取り入れられれば、本人も気分転換になり、介護の負担も減らすことができるでしょう。

予想できる行動には先手を打っておく

前頭側頭型認知症の特徴的な行動には、予想がしやすいものもあります。

たとえば、意味もなく食事を続けるような行動がみられた場合には、食事時間以外はテーブルの上に食べ物を置かないようにしたり、戸棚や冷蔵庫をあさる場合には外から鍵を付けてロックをしたりといった対応が有効です。

一方、万引き、痴漢、いきなり暴力をふるうといった行動がみられた場合には、外出の際にはできる限り付き添い、デイサービスなどもうまく利用しましょう。

前頭側頭型認知症の原因は?

実は、前頭側頭型認知症の原因はまだはっきりとはわかっていません。ただ、最近の研究では、脳の神経細胞の中にある「タウ蛋白」および「TDP-43」というたんぱく質が関与していることがわかってきています。

今のところ完全に治癒させたり進行を止めたりする薬はありませんが、日々、研究が進められているところです。

前頭側頭型認知症はどう診断するのか?

周囲が気づくのが難しいといわれる前頭側頭型認知症ですが、診断はどのように行なわれるのでしょうか。

まずは問診から

前頭側頭型認知症はゆっくりと進行していきます。そして、比較的若い時に発症することもあることから診断が遅れ、気がついた時には症状が進行して重度の認知症になっているケースもあります。

そこで、前述したような行動を発見した場合には、医師の「問診」を受けて、前頭側頭型認知症特有の症状が出ているかを確認してもらいましょう。

このとき、可能な限り患者本人以外の家族も同席することで、医師に自宅での様子を客観的に伝えることができるようになり、より正確な診断につながります。

前頭側頭型認知症の疑いがある場合にはCTやMRIを

問診の結果、前頭側頭型認知症の疑いがある場合には、CTやMRIを使って前頭葉や側頭葉前部に委縮が認められるかを調べます。

認知症は、種類によって萎縮する部位が異なります。たとえば、アルツハイマー型認知症の場合には、記憶をつかさどる脳の「海馬」という部分から委縮が始まり、やがて脳全体が委縮していきます。そのため、CTやMRIを撮ることで、前頭側頭型認知症かアルツハイマー病かを区別することができます。

また、必要に応じて「脳血流シンチグラフィー」で脳内の血流れを見たり、「PET」を用いて血流や代謝を確認したりすることによって、前頭側頭葉型認知症を診断する方法もあります。

前頭側頭型認知症の治療法は?

先ほどもお伝えしたように、原因が明確になっていないため、前頭側頭型認知症を完全に治したり、進行を止めたりする薬はありません。そのため、前頭側頭型認知症の特徴的な症状に対しては、主に抗精神病薬を処方する対症療法が行われているのが現状です。

仮に周囲に迷惑となるような行動が見られる場合には、生活環境を見直したり、短期入院を行ったりすることが有効なこともあります。これにより、許容できる範囲の行動に変えられるケースがあるためです。

まとめ

前述した通り、前頭側頭型認知症は、40~60代と比較的若い世代で発症することが多い病気で、気がついた時には重度になっていることがあります。

反社会的な行動や非常識な行動をとるようになる一方で、本人にはその自覚がないことから、介護の負担はとても大きなものとなります。介護者だけで抱え込まず、違和感を抱いたら早めに病院を受診しましょう。

本人が受診を拒否した場合には、まずは家族の話だけでも医療機関に相談することで、負担を軽減することにつながります。その上で、専門医や福祉サービスなどの専門家や、家族会などの同じ境遇の方々と情報を共有し、連携していくことが重要です。