認知症の全知識
この記事では、認知症が一気に進む原因や症状の進み方、なるべく進行を遅らせる方法について解説していきます。
「認知症の症状が一気に進むのはなぜ?」「進行を遅らせる方法はある?」とお悩みの人は少なくありません。この記事では、認知症が一気に進む原因だけではなく、認知症の人の家族や周囲の人が取るべき対応も解説していきます。
認知症の進行をなるべく遅らせたい人は、ぜひ最後までお読みください。
【この記事でわかること】
● 認知症が一気に進む主な原因 ● 【タイプ別】認知症の症状と進み方 ● 認知症の進行をなるべく遅らせる方法 ● 認知症の人の家族や周囲の人が取るべき対応 |
そもそも認知症になりやすい人の特徴は?
認知症になりやすいのではないかと不安に感じている人は少なくありません。認知症になりやすい人の特徴は、主に以下の通りです。
- 生活習慣が乱れている
- 社会から孤立している
- 遺伝的な要因を持っている
上記3つの特徴について詳しく解説していくので、当てはまるものがあるかチェックしてみましょう。
生活習慣が乱れている
乱れた生活習慣は、認知症の発症リスクを高めるおそれがあります。認知症に特に関わりがあるとされている生活習慣は、以下の通りです。
注意したい生活習慣 | 認知症を引き起こしやすい理由 |
運動不足 | ● 活動量の低下は全身の筋力が衰え、脳への血流が滞りやすくなる
● 活動量の低下によって脳への刺激が減少する |
過度な飲酒 | ● ビタミンB1不足によって記憶障害を誘発する
● 脳血管障害の原因となる |
喫煙 | ● 血管にダメージを与えるため、脳血管障害のリスクを高める |
不摂生な食事 | ● 高血糖が続くと認知機能が低下する
● 高血圧は血管に負担がかかり、脳血管障害を引き起こしやすくなる |
※2023年8月時点
※参考:【医師監修】認知症予防は生活習慣から|認知症のリスク要因と今日からできる予防習慣|SOMPOケア
近年では、スマートフォンを使いすぎると脳に負担をかけて、認知機能の低下につながるといわれています。長時間スマートフォンを使う機会が多い若い世代は注意が必要です。
メリハリのある生活で適度に脳に刺激を与えながら、規則正しい生活習慣を意識することが大切です。
社会から孤立している
他者と交流する機会が少なく、社会から孤立している人は認知症になりやすいとされています。社会から孤立しやすい人の性格は、主に以下の通りです。
- 頑固で協調性がなく周囲と円満な関係を築くのが苦手である
- 神経質で他人の目を気にして引きこもりがちである
- 何でも自分1人で行おうとして他者を遠ざける
他者との交流が多い人は脳が刺激され、認知症になりにくいでしょう。
地域のコミュニティやボランティアに参加したり、習い事を始めたりすることで、できるだけ交流を深めることが大切です。
遺伝的な要因を持っている
アルツハイマー型認知症の原因として、発症リスクを高める遺伝子があると判明しています。ただし、認知症の家族がいるからといって、必ずしも自分に遺伝するとは限りません。
アルツハイマー型認知症は、生活習慣や環境といった要因が複雑に影響し合って発症します。特に、加齢はアルツハイマー型認知症を引き起こす原因の1つといわれています。
また、身近な家族に認知症の人がいなくても、乱れた生活習慣を続けていれば認知症リスクが高まります。
認知症になりやすい物事の考え方や生活習慣を改善し、認知症の予防に取り組みましょう。
認知症が一気に進む主な原因
基本的に認知症は緩やかに進行し、長い年月をかけて病状が悪化していくものです。
しかし、認知症の進行速度には個人差があり、中には一気に認知症が進んでしまう人も珍しくありません。認知症が一気に進む原因は以下の通りです。
- 現在罹患している病気
- 過度なストレス
- 脳への刺激不足
- 行動の制限
上記4つの原因について解説していくので、確認してみましょう。
現在罹患している病気
認知症の発症や進行のリスクを高める疾患に罹患している人は、認知症の症状の変化に注意しましょう。
高血圧 | 脳血管型認知症の発症や進行につながる脳梗塞や脳出血を引き起こす |
糖尿病 | アルツハイマー型認知症の原因物質「アミロイドβ」の除去を妨げる |
歯周病 | アミロイドβの蓄積を早める |
パーキンソン病 | およそ40%が認知症を発症するとされている |
特に、高血圧や糖尿病、歯周病といった生活習慣病は身近な病気です。規則正しい生活や、栄養バランスの整った食事、適度な運動を意識してください。
過度なストレス
ストレスを受けると、ストレスホルモンとも呼ばれる「副腎皮質ホルモン(コルチゾール)」が多量に分泌されます。
コルチゾールの分泌量が増えると、注意力や記憶力、不安感などが生じ、認知症の症状が一気に進んだと感じるでしょう。
また、認知症の人は自分のいる場所や時間、置かれている状況などを適切に把握できません。そのため、不安感や自己肯定感の低下を伴います。
精神的な不調は生活リズムの乱れを引き起こし、徘徊や介護拒否といった問題行動につながることもあるでしょう。
脳への刺激不足
脳への刺激が不足すると、脳の老化や認知機能低下を招きます。特に、認知症の人は脳の機能が衰えやすく、一気に認知症が進みやすいといわれています。
日常生活の中に運動や脳トレ、他者との関わりなどを取り入れ、脳に刺激を与えましょう。
また、認知症で身の回りのことが上手く行えないからといって、世話をしすぎるのはおすすめしません。脳への刺激が低下するだけでなく、認知症の人の役割を奪ってしまいます。
必要な部分のみサポートし、認知症の人の能力を引き出すような介護を心がけてください。
行動の制限
行動を制限されると意欲が低下して、認知症が一気に進みやすいといわれています。
入院中や在宅介護中は、安全を確保するために行動を制限することは珍しくありません。
しかし、行動を制限しすぎるのではなく、誰かが付き添って自由に行動する時間を設けましょう。
【タイプ別】認知症の症状と進み方
認知症にはいくつかのタイプがあり、現れる症状やその後の進行速度はそれぞれです。ここでは、認知症のタイプ別に、症状と進み方について解説していきます。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 脳血管性認知症
- 前頭側頭型認知症
上記4つの認知症についてお伝えしていくので、それぞれの違いについてしっかり把握しておきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症の原因は、アミロイドβという異常なタンパク質が脳に蓄積するためとされています。
脳の神経細胞がダメージを受けた結果、記憶を司る「海馬」を中心に脳が萎縮していきます。最初は軽い物忘れが生じ、やがて理解力や判断力の低下によって日常生活に支障をきたすようになるでしょう。
脳の機能全体が緩やかに低下していくため、症状はゆっくりと進みます。特に、初期の物忘れの症状が軽いほど、進行が緩やかであることがわかっています。
症状が一気に進んだり、急激に悪化したりするケースは少ないでしょう。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は急激に症状が進行する人もいれば、緩やかに進行する人もいます。進行速度は個人差が大きいといえます。
また、時間帯や日によって症状が変化するので、症状の進行の度合いを把握しにくい側面があります。発症初期に物忘れの症状が目立たず、気づいたときには症状が進行しているケースも珍しくありません。
注意力が散漫になったり、仕事や家事ができなかったりするなどの症状がよく見られるので、普段の症状の変化を注意深く観察してください。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳の血管に障害が起こることで症状が進行します。
ダメージを受けた位置や範囲によって、進行の度合いは異なるでしょう。
ただし、症状は一気に進行するおそれもあるため、脳梗塞や脳出血を繰り返し起こさないように予防に努めることが大切です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、緩やかに進行していくケースがほとんどです。
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで、初期症状として人格の変化や異常行動、無気力・無関心などが現れるでしょう。
また、パーキンソン病の症状などは、誤嚥や呼吸をコントロールする筋肉の麻痺を起こし、寿命に影響します。
ただし、症状の現れ方は個人差があり、発症後すぐに症状が現れるとは限りません。中には、発症から比較的時間が経過するまで、症状が出現しない人もいます。
認知症の進行をなるべく遅らせる方法
認知症の進行が緩やかになると、本人の感じている不安だけでなく、介護者の負担を和らげるのに役立ちます。
認知症の進行をなるべく遅らせる方法は以下の通りです。
- 運動量を増やす
- 生活習慣を改善する
- 認知機能トレーニングを行う
- 社会とのつながりを保つ
上記4つの方法について解説していくので、認知症の人の介護に取り入れることを検討しましょう。
運動量を増やす
特に、有酸素運動は脳の血流がよくなるため、認知機能の維持・向上に役立つといわれています。しかし、負荷がかかりすぎてしまうと、事故や怪我につながりかねません。
ウォーキングや水泳、ヨガなど身体への負担が少なく、長期的に無理なく続けられるものがおすすめです。
生活習慣を改善する
生活習慣を改善することで、認知症の進行をなるべく遅らせることが期待できます。
認知症の進行を防ぐためには、1日の睡眠時間は6〜7時間ほどをキープしましょう。アルツハイマー型認知症の原因となる、アミロイドβは睡眠中に減少するためです。
一方で、認知症の人は睡眠が浅くなり、生活リズムが昼夜逆転してしまうケースが少なくありません。夜間にしっかり身体を休められないと、本人だけでなく、介護者にも負担がかかってしまいます。
午前中のうちにしっかりと日光を浴びて、セロトニンの分泌を促してください。
日中の活動量を増やすと適度な疲労感を得られるので、夜間の睡眠の質の向上が期待できます。日中の眠気がひどいようであれば、30分以内の昼寝もおすすめです。
また、起床時間や就寝時間を始めとした1日のスケジュールを固定することで、規則正しい生活を送りやすくなるでしょう。
認知機能トレーニングを行う
認知機能トレーニングとは、塗り絵や習字を通して認知機能の維持・向上を目指す非薬物療法です。作業療法の一環として、機能訓練にも取り入れられています。
料理も認知機能への効果が期待できるとされていますが、認知症の症状が進行している場合、火や包丁の取り扱いは危険です。
本人の認知機能や身体機能に合わせて、安全に実施できるものを選びましょう。
社会とのつながりを保つ
社会とのつながりを保つことで、脳が刺激されて活性しやすくなるといわれています。家の近所を散歩して、近隣住民に挨拶をするだけでも刺激が得られるでしょう。
また、在宅介護で社会と交流する機会が少ない場合、デイサービスやショートステイの利用もおすすめです。
他の利用者やスタッフと関わったり、集団型のレクリエーションに参加したりすることで、自宅では得られない刺激を受けられます。
介護者の負担軽減が期待できるのも魅力的です。社会活動の場を増やしたい場合は、介護サービスの利用を検討してみましょう。
認知症の人の家族や周囲の人が取るべき対応
認知症の人は身の回りのことを自分で行うのが困難であるため、周囲のサポートを必要としています。
しかし、不適切な対応は認知症の症状を悪化させてしまうため、注意しなければなりません。認知症の人の家族や、周囲の人が取るべき主な対応は以下の通りです。
- 本人に寄り添う
- 過度なサポートは控える
- 施設の利用を検討する
上記3つの対応について解説していくので確認してみましょう。
本人に寄り添う
認知症である本人は、変化する自身の症状への不安や戸惑いを感じています。そこで、家族や周囲の人は本人の気持ちに寄り添い、不安感が強まらないように心がけましょう。
気持ちが安定することで、認知症の症状が一気に進むのを防ぐことが期待できます。
過度なサポートは控える
認知症の人は、身の回りのことを自分でやろうとすると時間がかかったり、失敗したりします。そのため、過度にサポートしてしまう介護者は少なくありません。
しかし、過度にサポートすることで脳への刺激が減少し、認知機能が低下する原因になるおそれがあります。
また、先回りしてサポートしてしまうと、「自分は何もできない人間だ」や「周囲から必要とされていない」と、無力感や疎外感が生じやすいといえます。認知機能の維持・向上のためにも、本人の能力でできることは本人が行うのを見守りましょう。
施設の利用を検討する
認知症の進行速度は個人差があるものの、やがて症状は進行していきます。
症状が進行するにつれて、必要なサポートが増えるため、介護者の負担もかかりやすいといえます。訪問介護やデイサービス、ショートステイといった介護サービスを利用しても、在宅で介護を続けるのに限界を感じる場合、施設入居も視野に入れましょう。
人気の高い施設では、空きが出るまで数年待つ場合があります。そのため、早めに資料の請求や情報収集を始め、希望する条件に合う施設を探しておくことが重要です。
認知症に関するよくある質問
最後に、認知症に関するよくある質問を紹介します。
- 認知症に死の前兆はある?
- 認知症が進むと顔つきが変わるって本当?
- 認知症になりやすい人の口癖は?
上記3つの質問について詳しくお答えしていくので、不安の解消にお役立てください。
認知症に死の前兆はある?
重度の認知症になると、亡くなる6ヶ月〜2年ほど前から、前兆となる症状が現れ始めます。
- 1日に何度もてんかんの発作を起こす
- 嚥下障害によって食べ物を飲み込めない
- 食事への関心がなくなり、食事や水分の摂取量が減る
- 異食や弄便(おむついじり)といった異常行動を繰り返す
※参考:認知症の最期はどうなるの?気になる疑問について徹底解説します! | 健達ねっと
特に、亡くなる1週間ほど前では、あえぐような下顎呼吸や意識の低下、性格が穏やかになるといった変化が生じるとされています。
しかし、当てはまる症状が現れているからといって、必ずしも亡くなる前の前兆症状であるとは限りません。体調不良や便秘が原因で食欲が低下したり、気持ちが満たされることで人柄が穏やかになったりしていることも考えられます。
そのため、普段から注意深く様子を観察し、症状の変動がみられないか把握しておくことが大切です。
認知症が進むと顔つきが変わるって本当?
認知症の症状が進むと、以下のように顔つきが変わってくる場合があります。
- 瞼が下がって覇気のない目つきになる
- 顔の皮膚がたるんでベース型や八角形のフェイスラインになる
- 口角が下がる
- 表情が乏しくなる
認知症の人は外部からの刺激に関心がなくなり、笑ったり話したりする機会が減ります。そのため、表情筋や口角筋が衰えやすい上に、顔全体が垂れ下がった印象につながります。
また、気持ちも塞ぎこみがちになり、顔つきの変化に影響するとされています。
認知症になりやすい人の口癖は?
認知症になりやすい人は、以下のようなネガティブな口癖が多い傾向にあります。
- 今に比べて昔は良かった
- 今の若い人はダメだ
- 疲れた
批判的な考えから、頻繁に他者とトラブルを起こす人も少なくありません。ストレスや社会からの孤立は認知症の発症リスクを高めるだけでなく、症状の悪化も招きます。
社会からの孤立しないため、自分や周囲の人に対して寛容的な考えを持ち、ポジティブな口癖を心がけましょう。
認知症が一気に進まないためには日頃の暮らしが大切
認知症は、過度なストレスや脳への刺激不足といった理由から、症状が一気に進むことがあります。
タイプ別に症状の進行速度は異なるものの、個人差があるため、注意深く観察することが大切です。
また、規則正しい生活や運動、社会との交流などは、認知症の症状の進行を遅らせるのに役立ちます。過度にサポートしすぎず、本人の気持ちに寄り添いながら、認知機能の維持・向上に努めましょう。